愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
潤side
目敏い男だと言うべきか。
大広間に入ってきて早々に智を見つけたあの男は、遠慮の無い視線で値踏みするように、頭から足の先までを見ると
「なんだ…この男は…」
怒気を含んだ声を出す。
思惑通り、智の存在は癇に障ったらしく、不快感を隠そうともしない態度に内心ほくそ笑んだ。
「貴方には関係ない。私が跡継ぎを残して松本家を繁栄させれば、何をしても構わない筈。貴方だってそうしてこられたんですから」
お前の背中は、俺にそう教えてきたんだ。
だから俺は同じことをしているだけ…
そして横暴な男は無言で俺をじろりと睨みつけ、肩を抱かれている智に視線を移すと、なんの断りも無く人形にても触れるかのように小さな顎を取り
「お前も馬鹿な男だ…。何が愉しくてこんな男の道楽に付き合う?金か…慾か、それとも他に目も眩むような耳触りのいい話でも持ち掛けられたか…」
一方的に辱めを与え続けた。
智はあまりの物言いに言葉も出ないのか、抱いている肩は震え、顔色は蝋人形のように真っ白になっている。
…泣かないのか……
普段なら、泣けば済むと思ってるかのように涙を流す男が、唇を噛んで堪えている姿に興味を唆られた。
「くくっ、この男が馬鹿な訳ないでしょう?強かで身の程をわきまえた賢い男です。これは私のもの…、手出しはご遠慮下さい」
「ほぉ…、潤にそこまで言わせるとは、どんな手管を使ったんだ…?」
にやりと厭らしく顔を歪めた男は目を細める。
「さぁ…、ご想像にお任せしますよ」
「そんなもの…想像したくもないわ」
思った通り、男色には興味を示さない男は吐き捨てるようにそう言った。
「これは…松本の伯父様。お久しぶりでございます。」
一触即発の雰囲気を察したのか、和を以って貴しとする男が背後から穏やかに声を掛けてきた。