愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
和也side
翔坊ちゃんの支度を終え、祝宴の会場でもある広間に下りると、そこは既に多くの人で溢れていて、俺は御学友と気さくに挨拶を交わされる坊ちゃんから一旦離れ、給仕の仕事に就いた。
客人に飲み物を配って歩きなから、その機会を伺っていた丁度その時、同じ使用人仲間の俊介が俺の肘を小突いた。
「潤坊ちゃんのお出ましだぜ」
軽く耳打ちをして横を通り過ぎる俊介を目で追いながら、俄に騒がしくなった広間の入口に視線を向けた。
するとそこにいたのは、如何にも威厳の鎧を身に纏った潤坊ちゃんの姿で‥
その周りには、既に数人の取り巻き‥だろうか、一言挨拶しようと列を成していた。
俺は給仕を続けながら、潤坊ちゃんとの距離を徐々に詰めて行った。
例の計画を何事も無く遂行させるためには、潤坊ちゃんの行動には常に注意を払う必要があったからだ。
そんなこととは露とも知らず、潤坊ちゃんは群がる取り巻き連中を引き連れ、その足を広間の奥へ奥へと進め、丁度中央くらいに差し掛かった時、漸くその足を止めた。
するとそれまで群がっていた人並みに一瞬隙間が出来、俺の目の前にありえない光景が広がった。
嘘‥だろ‥?
どうして‥
盆を持った手がかたかたと震え、身体はまるで石にでもなったかのように動かなくなってしまい、ただ見開いた視線の先で、潤坊ちゃんに肩を抱かれ、所在無さげに俯くあの人の姿だけが浮かんで見えた。
これは一体どういうことなんだ‥
停止した思考を必死で巡らせるけど、答えなんて一向に出てきやしない。
すると俺の視線に気が付いたのか、その人はゆっくり俺を振り返り、
ごめんね‥
まるでそう言っているかのように、悲しげに瞼を伏せた。
こうしちゃいられない‥
一刻も早く、このことを翔坊ちゃんにお知らせしなくては‥
俺は手に持っていた盆を近くの台に置き、すぐ様御学友との歓談を愉しむ翔坊ちゃんの元に駆け寄った。
「坊ちゃん、あの‥」
「どうしたの?」
坊ちゃんは俺の顔を見るなり、事の次第を察したのか、一瞬表情を固くしてから、御学友に「ちょっと失礼するね」と伝えてその場を離れた。