愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
吹き抜けの美しい玄関に入ると、翔君の学友と思しき若者達が楽しそうに話しながら大広間へと続く廊下へと歩いていくのが見えた。
私はかつての自分達の姿をそこに重ね微笑ましいと思うと同時に、過ぎ去った日々の美しさが持つ懐古に浸りながら、彼らの後に続いて歩く。
優雅に会釈をしながらすれ違う使用人達。
その中に恋人の姿を探してみるものの、今日の主宰者である翔君が大広間にいないということは、まだ二人は自室で一緒にいるのかもしれない。
開宴まではまだ時間があった。
広間の扉近くで立ち止まり中を見回していると
「よっ、お前も来てたのか?」
不意に後ろから声を掛けられて振り返る。
「生田…、お前も来ていたとは。」
つい数日前にも酒席で顔を合わせた朋友が明るい笑顔を向け、
「そりゃそうさ。翔君は我々にとっても弟みたいなもんだからな。こんなちっちゃい頃から遊んでやってただろ?」
と、腰のあたりに手を翳した。
「そうだったな…。生田とは庭で遊び、私とはよく本を読んでいた。懐かしいものだな」
「その翔君もいよいよ卒業を迎えるとあれば、先輩として祝ってやらないと」
生田は感慨深げに目を細めた。
「他にも誰か来ているのか?」
翔君には申し訳ないが、あまり知り合いが多いと身動きが取りづらくなることが少し心配だった。
すると彼は肩を竦め
「まあ何人かはいるみたいだけど、松本と知り合いってだけじゃここには呼ばれないからな。なんて言っても主役は翔君なんだし」
ぐるっとあたりを見回した。
すると奥の扉の方でざわりとどよめきが起き、人々の目が一斉にそちらに向いて‥
「いよいよ主役のお出ましかな…?」
「かもしれないね」
どよめきの中心に翔君が立っているのを見てとると、私の視線はそのまま和也の姿を探していた。