愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
雅紀side
こうして松本の屋敷を訪れるのは、智と別れたあの日以来…
幼い頃から何度も遊びに来ていた腹心の友の屋敷が、こんなにも遠く感じたことはなかった。
潤は酒席で顔を合わせても、智のことを一切話さなかったし、私も聞くことはなかったけれど遺恨があることぐらいは覚えているだろう。
傍若無人な振る舞いをするようなところはあるが、裏を返せば自分の思いに素直なだけなんだと…信じている。
今日…、智の姿が消えてしまったことに気がついた時、潤がどんな行動にでるか予測すらできないが、歳若いあの三人だけは守らなければ。
その思いだけだった。
やがて見えてきた大きな門をくぐり、小窓から見える庭の風景にあの日の智の横顔が重なる。
その財力が誇る広大な敷地は美しい森のようで、ゆったりと翼を広げたような白亜の屋敷の大きさに、智は驚きに目を見張り…きゅっと拳を握りしめていた。
つい数ヶ月前のことなのに、ずいぶん昔のように感じた。
数日前になって漸く翔君は智に計画を打ち明けることができて、ここを出ることに合意してくれたと聞いている。
勿論…私に会うことも承知の上だと。
ああいった別れ方をして、こんな形で再会することになる智の心中も複雑かもしれない。
それも仕方のないこと。
馬車はかつかつと蹄の音を立てて小道を駆けると、私を屋敷の前まで連れて行く。
いよいよか…
かたりと音がすると扉が開き、出迎えの者が恭しく頭を下げた。
私は大きく息を吸い踏み台を降りると、白亜の洋館を仰ぎ見る。
あの部屋に智がいる。
鎖に繋がれて…
誰に気づかれることもなく、ひっそりと匿われていた
かつての情人
私では幸せにしてやることのできなかった幼い日の智の笑顔をもう一度…
もう一度…みたい…
それが私の若き日の夢だったのだから。