愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
窓の外では引っ切りなしに馬車が止まっては動き出し、招待客の到着を知らせている。
恐らく大広間には翔の学友たちや、あいつと顔馴染みの俺の知り合いなんかが、祝宴という名の社交場で様々な駆け引きを始めている頃だろう。
所詮…俺たちの身を置いている世界とはそんなものだ。
蜜に群がる蟻のような連中ばかり…
かたや、濃紺の背広を着た智は借りてきた猫のように大人しくなって、長椅子の隅に腰掛けている。
いつも部屋の中で自由奔放にしている姿とは大違いだ。
緊張してるのか、顔は強張り、膝の上で握ってる拳は微かに震えているようにも見えた。
「退屈そうだな…。それとも窮屈なのか…?」
「別にそういう訳じゃなくて…」
「まあ、その格好じゃ大人しくしてるしかないのかもしれないが…、ああ、そろそろ役者も揃ってきたようだ。お前も見てみるがいい」
窓から下を眺めていた俺は、腹心の友だった男が馬車から降りてくるのを見つけて、智を窓際へと呼ぶ。
重い足取りで隣に立った彼は促されるままに下を見て
「雅紀…さ、ん……」
小さな声でその名を呼ぶと、冷たい硝子に手をついた。
「久しぶりのご対面…という訳だ」
「いやだ、会いたく…ない」
「聞けぬ相談だな…」
「お願い、します…」
智は目に涙を浮かべて、背広の袖に取り縋る。
「俺にそんなことを言っても無駄なことぐらい、お前が一番よく知ってるだろう。諦めろ」
「お願い……」
余程会いたくないのか、珍しく言うことを聞こうとしない態度に苛立ちを覚えた。
「往生際の悪い奴だな…。ならば、こうしてしまえば諦めもつくだろう」
「いや…っ、離してっ……」
俺は自分の袖に取り縋っていた手を掴むと、小柄な身体を部屋の木扉の方へと引き摺るように歩いていった。