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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第12章 以毒制毒


潤side


少しずつ屋敷の中が騒がしくなってきて、その時が刻々とやってくるのを感じる。


父親とは呼べない、どこまでも自分勝手な男に思い知らせてやるには丁度いい宴じゃないか。


俺は背広に袖を通しながら、ゆっくりとした動作で釦を留めている智の後姿を眺めた。


「まともな服を着るのが久しぶり過ぎて、着方を忘れてしまったか」

皮肉混じりに言った言葉に振り返った智は、黙って首を横に振る。

そして小さく息を吐き

「どうしても…行かなければいけませんか?」

と此の期に及んで、まだ嫌がる素振りを見せた。


「何度も同じことを言わせるな。今日ほど舞台の整う日はないんだ。それとも下がりの背広では不服とでも?」

「いえ‥っ、そんなことはありません。ただ僕はここで大人しくしている方が性に合っているような気がして…」

「性に合ってるか…。そんなこと、よく言えたもんだな。」

「どういう…ことですか‥?」

智は訝しげな表情で真っ直ぐに俺を見つめ返す。


「言った言葉の通りだ。大人しくしていたい奴が、よくも雅紀と一緒にあんな社交場に出てきたもんだ。」

「それは…っ…」

「しかもあいつを捨てて、さっさと俺の懐に入ってくるとは恐れ入ったよ」

そこまで言われて言葉に詰まった智は、視線を落とし唇を噛んだ。


「俺は雅紀ほど寛容な人間じゃない。…今日、同じことをしたならば…どうなるかわかっている筈」


今日の招待客のなかには雅紀の名前もあった。

智は雅紀の姿を見つけたならば、どんな顔をするだろう。


昔馴染みの情を思い出すのか…

それとも嘲けりの表情を浮かべるのか。


どちらにしても、それも一興…


釦を留める手が止まってしまったのを見て俺が立ち上がると、智はびくりと身体を震わせる。

そして近づいていく俺の足元を見て後退り…


「お前は大人しく俺の横に立っているだけでいい…。それだけで今日の宴の最高の余興になるんだからな…」


彼は残りの釦を掛けていく手を黙って見ていた。
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