愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
智side
明け方になって漸く眠りに就いた僕は、不意に肩を揺すられ、まだ重い瞼を持ち上げた。
「ん‥、澤‥さん?どうしたの、こんなに朝早く‥」
瞼を擦りながら気怠い身体を起こした僕に、澤は“しっ”とばかりに口に人差し指を当てた。
「いいかい、良くお聞き?翔坊ちゃんと上手いこと逃げ仰せたら、幸せになるんだよ?いいね?」
寝起きのせいか、それとも眠りが浅かったせいか、僕は澤の言ってる意味が良く分からず、首を傾げた。
でも、
「和也から話は聞いてるよ」
そう言われて、漸く合点のいった僕は、昨夜睦事の後に潤から言われたことを思い出した。
「あのね、澤さん‥、実は‥」
言いかけた時、湯殿へと続く扉が開き、湯上りの身体に薄絹を纏っただけの潤が姿を表した。
「目が覚めたようだな。お前も湯を浴びて来るがいい。それと澤、例の物は用意出来ただろうな?」
「はい、こちらに‥」
例の物‥?
一体何のことだろう‥
「何をしている、さっさと湯を浴びて来い。それとも、慾に塗れたままで客人の前に立つ気か?」
下卑た笑みを浮かべ、潤が長椅子に腰を下ろす。
その様子に、澤の目が驚いたように見開かれた。
「あ、あの、坊ちゃん‥、それはどういう‥」
「お前には関係のないことだ。頼んだ物を置いて、さっさと仕事に戻れ。今日の祝宴に失敗は許されんからな」
「は、はい‥」
潤の心なしか怒気‥と言うよりは、どこか狂気のようなものをを孕んだ言いぶりに、澤は表情を硬くして一歩後ずさると、そのまま頭を下げ部屋を出て行った。
僕はそっと布団を抜け出すと、床に落ちていた寝巻を引き摺り湯殿へと向かった。
火に油を注ぐような真似はしない方が良いから…
熱めの湯を頭から浴びながら、思考を巡らせる。
澤はきっと何かを勘づいた筈だ。
僕が潤の情人として祝宴の席に顔を出すことを、澤の口から上手く和也達に伝わるといいんだけれど‥
もしそうでなかったら、三人が危険な目に合うかもしれない。
僕の胸を一抹の不安が過ぎった。