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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第12章 以毒制毒


和也side


思いもよらない来客に、坊ちゃんと顔を見合わせる。

坊ちゃんは一瞬表情(かお)を強ばらせたけど、すぐに 頬を緩ませて、

「どうしたの、こんなに朝早く」

何事もなかったような顔を澤さんに向けた。

「和也から事情は聞きました。それで私からも坊ちゃんにお話したいことが‥」

「そう‥、じゃあ座って?あ、和也はもう下がっていいから」

「はい、でもあの‥」

言いかけた俺を、澤さんがちらりと見る。

気のせい‥なのかもしれないけど、その目が酷く悲哀に満ちているように見えて、俺は咄嗟に二人に向かって頭を下げると、踵を返しそのまま部屋を出た。

廊下に出た俺は、閉ざしてしまった扉を、何度も振り返りながら、階下へと続く階段を降りた。


澤さんが坊ちゃんに一体なんの話だろう‥

ひょっとして気が変わって、鍵を返して欲しいとか‥?

いや、でもそんなことはない。

だって俺の話に、澤さんは涙を流してくれたんだから。

きっと大丈夫、上手く行く。


「おい、和也、手ぇ空いてんならこっち手伝ってくれ」

厨房の片隅で一人こっそり拳を握り締めた俺を、包丁片手に鯛と格闘する松岡さんが呼んだ。

「は、はいっ!」

返事を返した俺は、松岡さんの元に駆け寄ると、松岡さんの指示に従って手を動かした。


いけないいけない、今は余分なことは考えず、とにかく滞りなく祝宴が始められるよう、準備に集中しないと‥

ここで躓いては、全てが台無しになってしまう。

それに少しでも俺が不審な動きをすれば、怪しまれることにもなりかねない。


贅の限りを尽くした料理の数々を広間に運びながら、俺は何度も頭の中で、雅紀さんの立てた計画を繰り返した。


そして全ての準備を終え、着替えを済ませた俺は、再び坊ちゃんの部屋を訪ねた。

坊ちゃんの支度を手伝うためだ。

その時、澤さんが大事そうに風呂敷包みを抱えて潤坊ちゃんの部屋に入って行く姿をちらりと見かけたが、あまり気に止めることもなく、その事を坊ちゃんに報告することもしなかった。


もしあの時俺が、坊ちゃんにきちんと報告していれば、もしかしたらあんなことは起こらなかったかもしれないのに‥
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