愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
「大丈夫だよ‥、きっと。澤が鍵をくれたんでしょう?ああ見えて澤はおれたちが小さい頃からずっと世話をしてきてくれた人なんだもの。いざとなれば兄さんのことだって説き伏せてくれるかも知れないし‥」
おれは智を連れ出したい一心で‥
そんな‥夢みたいな‥
淡い期待を持ってしまった。
「そう、ですか‥?あの潤坊っちゃんを‥」
和也は腑に落ちないような顔をしてたけど、おれが頷きをみせると渋々首を縦に振った。
「兎に角さ、今は智を連れ出すことだけを考えよう?」
「‥わかりました、では私は下の手伝いにいって参ります」
「うん、皆んなにもありがとうって伝えといて」
もしかしたら祝宴の途中で智がいなくなったことに兄さんが気がついたら‥台無しにしてしまうかもしれないし‥。
「わかりました。松岡さんなんか、坊っちゃんの最後の祝宴だからって、最高の食材で美味しいもの作るんだって張り切ってましたからね」
「そうなの?‥有り難いね」
本当に‥なんて恵まれてるんだろう
「ふふ、皆んな翔坊っちゃんのそういうところが好きなんですよ。下っ端の使用人にまで分け隔てなくお声を掛けてくれるから‥坊っちゃんのために頑張ろうって思えるんです」
そう微笑んでくれた彼が立ち上がり、部屋を出て行こうとすると‥
こん、こん‥
遠慮がちに木扉を叩く音がする。
まだ朝食の時間までは早いのに‥
おれと和也が顔を見合わせ、彼が扉を開けに行く。
「失礼いたします、少しよろしいでしょうか?」
「え、あ、どうしたんですか‥?」
木扉の向こうから澤の声がして‥
行く先を譲った和也も戸惑った声を出して。
部屋の中に入ってきた澤は、何とも言えない表情を浮かべていた。
「どうしたの‥、何かあったの?」
らしくないそれにざわりと気持ちが騒いだ。