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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第12章 以毒制毒


翔side


興奮していたせいか眠りが浅くて、夜中に何度となく目が覚めた。


いよいよ今日という日が来たんだ‥


白く明けていく空は雲ひとつなくて、智が囚われの部屋から羽搏くに相応しいと感じた。

いくら早く目覚めたところで祝宴の始まる時間は決まっているっていうのに、大人しく寝てることなんてできなくて。

温かい寝台から這い出ると、沈黙する漆喰の壁に手のひらを当てる。


「約束‥ちゃんと守るから‥、もう少しだけ待っててね」


声は届かなくても‥

想いだけは‥届くといいな



おれは着替えを済ませると、物音を立てないように部屋を出て、和也を探しに階下へと降りる。

普段は滅多に足を踏み入れることの無い厨房の方からは、祝宴のための料理の準備が始まっているのか、松岡さんの張りのある声が響いていた。

それを聞きながら更に奥へと歩いていこうとすると

「まあ‥坊っちゃま、こんなに早くにお目覚めですか?」

不意に後ろから声を掛けられる。

「あ‥澤、おはよう」

「おはようございます、坊っちゃま。こんな早い時間にお出ましにるなんて‥」

「うん‥、何となく目が覚めちゃって」

というより、あまり寝られなかったというのが正確かもしれないけど。


「あらまあ‥坊っちゃまったら、小さな子供みたいなことを仰って。幾つになられても、そういうところはお変わりにならないんですねぇ」

病に伏せていた母様よりおれのことをよく知っている澤は、嬉しそうに目を細めた。

「もう‥、揶揄わないでよ。」


‥和也は鍵を手に入れることができたんだろうか。

鍵が手元から失くなっていれば、もっと焦りそうなものなのに、その様子は普段と変わらない。

もしかして失敗した‥とか‥


今日の計画は和也が兄さんの部屋の鍵を手に入れていることが大前提なんだ。

それが無ければ話にならない。


「ね、和也は何処にいる?」

確かめなくっちゃ‥

「ああ‥、今の時間なら厨房の手伝いをしてる時分ですね」

「じゃあ、何か飲む物を持ってくるよう‥言っといてくれる?」


鍵が手に入ったかどうか‥

この目で確かめなきゃ‥安心できない‥


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