愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
智side
明日‥
明日になれば翔くんが僕をここから連れ出してくれる。
潤に抱かれながら、僕の頭の中はそのことでいっぱいだった。
この男に抱かれるのも、今日が最後だ、と‥
なのに‥
思いもよらない潤の一言に、僕の視界がぐにゃりと歪む。
どうしたらいい‥
まさか僕が祝宴の席に‥?
本気で言ってるのか?
僕はざわつく胸を落ち着かせ、不敵な笑みを浮かべる横顔を盗み見た。
すると僕の視線に気付いたのか、潤が首を動かすことなく目線だけを僕に向かって寄越した。
僕は汗ばむ潤の胸に頬を寄せると、動揺を気取られないよう、熱を籠めた視線で見上げた。
「御冗談‥なのでしょう?そのような晴れやかな場に、僕などお連れになっては、潤様のお立場が‥」
誰よりも自尊心の強い男だ、蔑み、罵られるのは耐え難い屈辱に違いない。
「それに僕はこのままでも十分幸せですから」
「く、くくく‥、俺の立場だと?お前は俺に立場などあると思うのか?笑わせるな、俺など所詮松本の名を残すための道具に過ぎんということを、お前はまだ分からないらしいな」
自嘲気味に笑い、見上げた僕の顔に手を伸ばす。
でもその手は僕の頬に触れることはなく‥
「もう寝ろ。明日は朝早くから屋敷の中も騒がしくなる。俺は色艶もない玩具を連れ歩くつもりはないからな」
潤はそれきり僕に背を向けた。
どうする・・
どうしたらいい・・
このままだと、計画は失敗に終わってしまう。
どうにかしてこのことを翔君に知らせないと・・
ああ、でもどうしたら・・
僕は恨めしく聳える白い壁を見上げた。
この壁の向こうには翔君がいるのに・・
なのに壁一つ叩くことの出来ないこの状況に、もどかしさと苛立ちを感じる。
と同時に、何も出来ず、ただ助けを待つだけの自分が情けなくなってくる。
それでも無事に事が済むよう祈るしか出来ない僕は、まんじりともせず、白々と明けて行く空を見ていた。