愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
「実は・・」
俺は智さんの身に起きたこと、これから俺達がしようとしていること、全てを打ち明けた。
お二人が恋仲であることは伏せて・・
信じて貰おうなんて、これっぽっちも思ってなかった。
ただこの場をやり過ごすためには、仕方がなかった。
俺が話している間、澤さんは一言も発することなく、何度も首を何度も横に振った。
「あの子がまさか・・。道理で面差しが似ている筈。ああ、私はなんということを・・」
澤さんがちゃぶ台をどんと叩き、歪めた顔を無骨な手で覆った。
俺は一瞬身体を跳ねさせたが、すぐに顔を上げ、
「もしや澤さんは智さんの御両親を御存知なので?」
恐る恐る、覆ったままの顔を覗き込んだ。
「知ってるも何も・・、あの方は私の・・。いや、お前に話したところで今更だ。それよりも、本当に無事助け出せるのかい?その後のことはちゃんと・・」
それまで顔を覆っていた手が、両の膝の上で固く結んだ俺の肩に手を包む。
「それは・・」
矢継ぎ早の質問に、思わず言葉を詰まらせた俺の手を、澤さんは「どうなんだい」とばかりに強く握った。
駄目だ・・、ここで返事を躊躇うようじゃ、どんなに綿密に立てた計画だって上手く行くわけないじゃないか!
大丈夫、きっと上手く行く。
俺は顔を上げると、澤さんの手の中から右手だけを引き抜き、今度は俺が澤さんの手を包み込んだ。
「必ずや・・」
俺は澤さんに向かって大きく頷いて見せた。
「そうかい・・。でも一つだけ約束してくれるかい?決して無茶はしないと・・」
澤さんの手を包んだ俺の手に、熱い雫がぽつりぽつりと落ち、そして大きく息を吐き出すと、首に下げていた麻紐から小さな鍵を抜き取り、俺の手の中に収めた。
「いいん・・ですか?もしこんなことが知れたら澤さんが・・」
「持っておいき。なぁに、私のことは心配いらないよ。それに私にもやらなきゃいけないことがあるからね・・」
一瞬、澤さんの表情が険しくなったような気がしたのは、俺の気のせいだろうか・・
すぐに顔を綻ばせると、
「さあ、明日も早い。もうお休み」
そう言って俺の身体を、年老いた両手で抱きしめた。
俺は思いがけない澤さんの行動に戸惑いつつも、その暖かさに身を委ねた。
澤さんが何を考え、何をしようとしているのか、気づきもせずに・・