愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
和也side
「お疲れたかい?明日も早いから、今日は早くお休み」
贅の限りを尽くした祝宴の支度も無事終わり、澤さんが肩を揉みながら俺の肩を叩いた。
「はい」
返事はしたものの、俺にはまだやり遂げなくてはならないことがある。
「澤さんはもうお休みになるんですか?」
「私かい?そうだねぇ、明日のことを考えると、早く休みたいところなんだけどねぇ、私も歳だし。ただ最近寝つきが悪くてね‥」
そう言って澤さんは困ったように眉を下げて笑った。
「あ、そうだ‥。先日お使いに行ったお屋敷で、また珍しいお酒が手に入ったそうで‥」
「ほう‥、それで?」
「お断りするのも失礼かと思って、頂いてきたんですが‥、良かったら寝酒にでも‥」
くいっとお猪口を傾ける仕草をしてみせると、澤さんの目の奥が、きらっと光ったような気がした。
澤さんが部屋に戻る頃合をみて、俺はふっと息を吐き出すと、雅紀さんから持たされた酒瓶を懐に携え、そっと部屋を抜け出た。
「澤さん、私です、和也です」
声を潜め、軽く木戸を叩くと、
「入っておいで」
まるで俺が待ち兼ねたかのように弾んだ声が返ってきた。
俺は懐の物をそっと着物の袂で隠すと、物音を立てないように木戸を引いた。
「待ってたよ、さ、ここにお座り」
そう言った澤さんの顔には、溜まった疲れの色では隠せない程、期待に満ちているように見える。
俺は澤さんが出してくれた座布団に腰を下ろすと、懐に隠し持っていた酒瓶をちゃぶ台の上に乗せた。
すると澤さんはすぐさま酒瓶を手に取り、銘柄を確かめることなく栓を抜いた。
とくとくとく、と小気味いい音を鳴らしながら、大きめの湯のみに酒が注がれる。
「うん、いい香りだ‥」
なみなみと酒を注いだ湯吞に鼻先を近付け、満足そうに顔を綻ばせた澤さんは、そっと湯吞を持ち上げてから、漸く口をつけた。
「それにしても・・」
時折り美味そうに舌鼓を打ちながら、ちびちびと酒を舐めていた澤さんが、不意に声を上げた。
「こんな大層な代物を持たせてくれるなんて、随分と気に入られたもんだね」
ほんのり薄桃色に染まった頬を綻ばせるから、つい俺も笑顔になる。
「はい・・、ありがたいことです」
澤さんはうんうんと頷き、目を細めた。