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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第12章 以毒制毒


翔side


明日、兄さんの部屋から智を連れ出す為には、どうしてもあの鍵がなくちゃならない。

それを持っているのは兄さんと澤だけ。

あの夜、和也が上手く澤にお酒を呑ませ眠らせることができたから、今晩ももう一度同じ手を使おうって。


「そう、あのお酒‥、雅紀さんが用意してくれたあれを呑ませさえすれば澤はぐっすり寝てくれるんだよね?」

「その筈です。今日のは更に美味しいものだって聞いてますし、いっぱい呑んでくれたらいいんですけど。」

和也は少し眉を下げた。


どうにか朝まで澤を眠らせて、上手く鍵を持ち出すことさえできれば‥

多分、朝目が覚めて鍵が無いことに気がついたとしても、祝宴の時間が迫ってくれば鍵探しは二の次にしなきゃならない筈。

そうすれば誰が持ってるかなんて絶対に分かる筈はない。


「どうにか頼むよ、こればかりは和也だけが頼りだから‥」

「わかりました。今日は二度目なので多分大丈夫だと思います。それよりもこれを‥」

おれを安心させるために笑ってくれた和也は、風呂敷に包んでいた物を広げてみせた。

「これが‥そうなの‥?」


藍天鵞絨の綺麗な仕立ての一着の背広‥

雅紀さんが智のために仕立てたのだと聞いていた物。


「ええ、智さんはこれを着て、雅紀さんと一緒にこのお屋敷へと来られたんです」


奇しくも‥またその背広を着て、雅紀さんと再会してこの屋敷を出ていくことになる智。

なんという不思議な巡り合わせなんだろう‥


「それにまた袖を通すことになるとは、思ってもみなかっただろうね」

「ですね‥」


おれたちは、明日、智の身を包む背広を前に、長かったようであっという間に過ぎたこの三月(みつき)という時間に思いを馳せてしまう。



智がこの屋敷に来て、たくさんの縁(えにし)が新たに生まれた。


おれと和也も主従を超えた繋がりを持つことができたし、和也と雅紀さんだって‥そう。

勿論‥おれと智も‥

智が兄さんの元に来なければ出会うことはなかったのかもしれない。


合縁奇縁‥


そんな言葉がふと‥浮かんだ。




明日‥また運命の歯車が動き出す‥

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