愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第3章 兎死狗烹
「気にしなくていい。私がそうしてくれと頼んだのだから、気兼ねする必要は無いだろう。」
するとその青年は詰めていた息を小さく吐く。
「今日の会はね‥松本の好奇心を満たすために開かれたようなものなんだ‥。」
私は椅子に腰掛けた彼の膝の上で軽く握られた拳を見つめながら、誰に話すでもなく独り言のように話しはじめた。
‥‥誰でもよかったのだ‥。
誰でもいい‥‥
‥愛おしい者の哀しい裏切りを‥‥
信じていた筈の友の非情な仕打ちを‥
そして、それを招いてしまった愚かしい己の弱い心の内を吐きだしてしまいたかった。
「私が‥大切にしている宝物のような者を、自分に縛りつけておきたいがために‥秘密をさらけ出してしまおうなんて‥愚かなことを考えてしまったばかりに‥‥。」
‥‥いけなかったのは‥私だ‥
様々な思いが胸に去来し、抱えきれない感情が涙となって溢れ出てくる。
そこまで話し言葉を詰まらせてしまった私を、何も言わず見つめているであろう彼の握っていた拳が握りなおされた。
「‥先ほどご一緒されてた‥あの方のことですか‥?」
遠慮がちに言葉を選びながら青年は語りかけてくる。
「ああ‥その通りだ。‥‥愛しているんだ‥心の底から愛して‥‥」
誰にも‥打ち明けたことのない想い。
話せるはずのない‥‥
胸の中にある狂おしいほどの想い。
初めて口にした言葉で‥想いの堰が切れたかのように、名も知らぬ青年に苦しい想いを吐露してしまった。
「そんなに‥あの方のことを‥‥大切にされてたんですね。」
「大切だった‥出会ったあの日から、私が智を守っていくと‥そう心に決めたほど愛おしかった‥‥なのに‥どこで歯車が狂ってしまったのだろうか‥」
絶望に打ちひしがれ、女々しく愛する者への慕情を語る私を、その青年はただ静かに見守ってくれていた。
長い沈黙を階下から響く拍手の音が破り‥‥
「‥‥すまなかったね‥こんな話を聞かせてしまって。もう‥戻りなさい。」
涙を拭おうとすると、椅子から立ち上がった彼が、懐から取り出したハンカチを黙って私に差し出した。