愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
和也side
智さんの幸せ‥
それだけが俺の希望(のぞみ)であり、それを見届けることこそが俺の役目だ、ってずっと思ってきた。
智さんこそが俺の全てだった。
勿論、この先だって同じだと思う。
でも今は‥
俺にも愛する人がいる。
雅紀さんという、心から大切だと思える人がいる。
雅紀さんと幸せになりたい。
俺は雅紀さんから受け取った酒瓶を胸に抱いて、別れ際の口付けを強請るように、長身の雅紀さんを見上げた。
一度(ひとたび)触れてしまったら、離れ難くなってしまうのが分かっているのに‥
「和也、この件が片付いたら、二人でどこか外国にでも旅をしないか?」
「二人で‥ですか?」
「そうだ。まあ、旅とは言っても仕事も兼ねることになるだろうが‥、どうだろうか?」
目尻を下げた雅紀さんの顔がゆっくりと降りてきて、俺の額にこつんと雅紀さんの額がぶつかる。
至近距離から見つめられて、俺の心臓がどくんと大きく跳ね上がった。
「で、でも俺、外国なんて‥行ったこともないし‥」
「だからだよ。私はね、和也にはもっと広い世界を見てもらいたいと思っているんだよ。こんな狭い島国の中だけでなくてね?」
「雅紀さん‥俺、雅紀さんと一緒に見てみたい。雅紀さんと同じ景色を見てみたいです」
そのためには何が何でも計画を成功させなければ‥
俺は決意を新たにするかのように酒瓶をきゅっと抱きしめると、吐息が触れ合う距離にある雅紀さんの唇に、少しだけ背伸びをして自分のそれを押し付けた。
「さあ、行きなさい、茂に送らせよう。本当は私が屋敷まで送り届けたいところだが、明日に備えて色々と支度をしなくてはならないのでね‥」
「はい。あの、雅紀さん‥どうかご無事で‥」
「和也も‥」
真剣な表情(かお)で俺を見下ろす雅紀さんに力強く頷き、俺は玄関先に待っていた馬車に乗り込んだ。