愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
「明日の手筈は大丈夫だね?」
私は小さな肩に羽織を着せてやりながら、心配になって再度尋ねてしまう。
こんな機会はそう訪れるものではない。
ここにきて、決して失敗はできないという思いばかりが、妙な焦燥感を芽生えさせていた。
「はい、大丈夫です。宴が始まって翔坊ちゃんがご挨拶をされて、皆様が歓談を始められた頃ですよね?」
「そう、私が目配せをしたら君が智を翔君の部屋に連れて行って、着替えさせておくのだ。」
「そして雅紀さんは頃合いを見計らって、智さんと玄関から屋敷の外に出て、俺は勝手口から抜け出して、智さんをあの宿屋までお連れすればいいんですね」
「ああ、そうだ。程なく松本は智がいなくなったことに気がつくだろうし、そこから先は‥‥私がどうにか諌める。」
私達は互いの不安を隠すように、背中越しに明日の筋書きを話し‥
「きっと上手くいくよ‥。」
私は最後の言葉に俯いてしまった恋人を後ろからそっと抱く。
和也は微かに頷きはするものの、激昂するであろう松本の様を思い浮かべてしまうのか、不安に小さく震える。
「本当に‥お怪我の無いようにだけ‥。それだけは気をつけて‥」
自分を抱く私の腕に唇を寄せ、ただそれだけを案じてくれる。
「心配はいらないよ。それよりも、今晩‥‥」
「わかってます、もう一度澤さんにあれを飲ませたらいいんですよね?」
言いかけた私の言葉を継いでそう言った和也は、持ち帰らせるためにと用意しておいた酒瓶をちらりと見た。
以前の時は酒瓶に手を掛けたまま机に突っ伏した程だと聞いていたから、今回は更に口当たりのいい上等なものを手に入れていた。
「できるかい‥?」
大切な恋人に、最も気の重い役目を果たしてもらわなければならないことが気掛かりでならなくて。
「ふふっ、それは大丈夫です。あの日も、澤さんってば死んじゃったんじゃないかって思うほど、よく寝てくれましたし」
くすりと笑った和也は、抱きしめていた私の腕から顔を上げて‥
「雅紀さん、俺‥、智さんを助け出したいって気持ちは勿論ですけど、俺も、雅紀さんの傍に行きたいって思うから‥、その、自分も幸せになりたいって思うから‥」
前を向いて、はっきりと‥胸の内を言葉にしてくれた。