愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
雅紀side
「翔君もなかなか粋な計らいをしてくれたものだ‥。こうして和也と過ごすことができるとは思ってもいなかったよ」
軽く羽織らせた寝間着の袷から情交の熱の残る肌に口づける。
「あっ、雅紀さん‥もう‥」
擽ったそうに首を竦めた和也は、くすくすと笑いだす。
「もうお終いですってば‥」
口ではそう言いながらも、傍を離れようとしない愛しい人を抱きしめると、甘い香りを愉しむように薄く色づいた胸元まで唇を這わす。
もう‥いい加減、離してやらねば‥
そう思うのに久しぶりの逢瀬に溢れ出す想いが止められない。
「駄目だね‥、私の方が年長だというのに我が儘になってしまうなんて。」
「俺もっ‥でも、本当にもうお屋敷に戻らないと‥」
和也は甘い情慾に引き摺られそうになるのを懸命に堪えようとする。
その仕草が尚のこと色気を増してしまうことに気がつかないのか、乱れかける息を小さく逃し‥
「そうだね‥、さすがに帰してあげないと、澤に叱られてしまうね。」
「そ、そうですよ、明日の翔坊ちゃんの祝宴の用意が大変なのに遣いに出るのかって顰めっ面されたんですから‥」
「くくくっ、それは恐ろしい‥」
「冗談では済まないんですってば‥、もう‥」
漸く私が腕を緩めると、するりと寝台の中から抜け出した恋人は、慌てて着物を身に付けていく。
その慌てぶりに、仕方なく自分も着物を羽織っていると、
「いよいよ明日なんですよね‥」
袴の紐を締めた和也は感慨深げに言って、こちらを振り返る。
いよいよ明日‥
私たちは智を松本の屋敷から連れ出す。
「ああ、明日だ。漸く‥あの子を長く苦しめていたものから解き放ってやることができる‥」
ここまで随分と回り道をしてしまったが、漸く‥私は、智を本当に幸せにしてやることができる日がきたのだと思っていた。