愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第11章 海誓山盟
智side
それは、とてもとても幸せな時間だった。
翔君と漸く一つになれたこと、それ以上に翔君に愛されている喜びに、氷のようだった僕の胸が熱く溶けていくようだった。
僕達はこの上ない幸福の最中(さなか)にいると言うのに‥
どうしてそんなに悲しい目をするの?
どうしてそんなに苦しそうな顔をするの?
翔君の頬を濡らし続ける涙をどうにかして止めてあげたくて、身体を激しく揺さぶられながら両手で頬を包んだ。
僕にはその涙の理由が分かるよ‥
きっと僕も翔君と同じ気持ちだから‥
「泣かない‥で‥?」
嗚咽を漏らす翔君の涙を震える指で掬う。
「僕はもう翔君の物だから‥。誰に抱かれようと、僕の心は翔君だけの物‥。誰にも渡したりしない‥から‥。ね?」
例えこの先二度と翔君と結ばれることがなくても、翔君を愛する気持ちだけは永遠だから‥
「僕を‥信じて‥?」
僕は君だけの物だから‥
「‥うん、おれも‥おれの心も智の物だから‥。智だけ‥だから‥」
僕の中に翔君の愛の証が注ぎ込まれる。
「ああ‥、嬉し‥」
僕は翔君の放った熱を、首を仰け反らせて受け止め、意識の糸を手放した。
「‥とし? 智‥?」
僕を呼ぶ声に瞼を持ち上げる。
「ああ、良かった‥。おれ、智がどうかなってしまったんじゃないかって、もう心配で‥」
未だ意識を朦朧とさせる僕を、翔君が強く抱き締め、頬を擦り寄せてくる。
そんなに強く抱き締められたら、僕‥
「痛い‥よ‥」
「ご、ごめん! おれ、つい‥」
「ふふ、嘘だよ。もっと強く抱き締めて?」
この身が粉々になったってかまやしない。
だからもっと‥
翔君の体温を、僕の身体が忘れてしまわないように‥
翔君に愛された記憶が消えてしまわないように‥
強く‥
「智‥、もう二度と離したくない。この腕に抱き留めて、今すぐにでも連れ去ってしまいたいよ‥」
僕だって出来ることならそうしてしまいたい。
でもそんなことが出来る筈もなく‥
強く抱き合った僕達を裂くように、翔君の部屋の扉が叩かれた。