愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第11章 海誓山盟
智side
初めて入った翔君の部屋は、潤の部屋よりは少し手狭だけど、翔君の匂いで満ち溢れていて、そこにいるだけで‥その匂いに包まれているだけで、まるで翔君の腕の中にいるような感覚にさせられる。
不思議だな‥
壁を隔てた向こう側は、あんなにも冷たくて、寒くて‥
僕はいつだって膝を抱えて凍えていたのに‥
いつも翔君が叩いていた壁に手を触れると、そこから翔君の体温さえ伝わってくるような気がする。
ささくれ立った心を癒していくような、全てを包み込むような温もりの中に、ずっと包まれていたいと思ってしまう。
だから翔君が僕の手を握った時、
翔くんが「逃げよう」と言った時、
僕は自分の耳を疑った。
そんなこと出来っこない、って‥
それだけでも僕にとっては驚きだったのに、雅紀さんまで‥
何もかも無くし、路頭に迷っていた僕を拾い、時には父のように、時には兄のように大きな心で僕を包んでくれた雅紀さん‥
雅紀さんは僕に沢山の物を与えてくれたのに‥
僕はその恩に報いるどころか、裏切りとも言える酷い仕打ちをしたのに‥?
僕は信じられなくて首を横に振った。
いくら心優しい雅紀さんだって、あんな仕打ちをした僕を許す筈がない。
それなのにどうして‥
僕に幸せになって欲しいだなんて‥
僕はその時になって漸く、自分がどれだけ愚かだったか‥、犯した罪を悔いた。
でもまさかその雅紀さんと和也が恋仲になっているとは‥、正直驚きだった。
和也のことは小さな頃から知っているし、身寄りのない僕にとっては、兄弟と言っても過言ではない程大切な存在。
その和也が雅紀さんと‥
でも‥
雅紀さんなら安心だ。
和也のことを大切にしてくれる。
きっと幸せにしてくれる。
雅紀さんになら、僕の大切な弟を託せる。
「よかった‥」
心からそう思った。