愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第11章 海誓山盟
柔らかく微笑む頬に残った涙を拭ってあげると、智も同じようにおれの頬を撫でてくれて。
見つめ合い‥微笑みあって‥‥
言葉もなく‥
どちらからともなく‥
惹かれあった唇が静かに重なった。
優しくて‥あたたかくて‥
言葉なんてなくても、好きだって気持ちがおれの中に流れ込んでくる。
そっと唇を離すと智は恥ずかしそうにまた微笑んで‥
「おれの部屋にこない‥?今夜は一緒にいよう」
「‥いいの‥?」
「もちろん、朝まで‥おれと一緒いて欲しい」
僅かな時間だけど、2人で過ごす初めての夜だから。
おれは嬉しそうに笑った智の手を引くと、智にとってはまるで牢獄のようだった部屋を抜け出して、自分の部屋へと戻った。
「わぁ‥、ここが翔君の‥」
「うん、あのね‥ここがおれが叩いてた壁」
部屋に入ったおれは、そのまま‥いつも叩いていた白い壁の前に智を連れていく。
「ここが‥そうだったんだ‥」
「ん‥、いつもこの壁を叩いてたんだ」
智はそこを手のひらで撫でて‥
「僕‥いつも翔君が壁を叩いてくれるのを待ってた‥。寂しくてどうしようもなくて‥、自分からあの部屋に飛び込んだくせに、逃げ出したくて‥仕方なかった」
少し寂しそうに言うと、その手をぎゅっと握りしめた。
逃げ出したかったんだ‥
「逃げよう‥おれと‥。」
おれはぎゅっと握りしめた拳をそっと壁から降ろすと、自分の手のひらで包み込んだ。
「逃げる‥‥?」
「そう‥おれたち智を兄さんの部屋から連れ出そうって考えてた」
「おれたち‥って‥」
「おれと和也と‥雅紀さんの三人で‥」
「‥うそ‥‥、雅紀さんがそんなこと言うはずがない‥」
おれの言葉に目を見開いた智は、信じられないといったように首を横に振った。
「本当だよ。智は大切な人だから助けてやりたいって。幸せになって欲しいって言ってた‥」
「雅紀さんが‥僕のことを‥‥、あんな酷いことをした僕のことを‥‥」
おれは二人の間に何があったかは知らなかったけど、智がそれを後悔しているんだってことだけはわかった。