愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第3章 兎死狗烹
蓄音機が奏でる耳障りの良い音楽が流れる中、気心地の悪い服を着せられ、酷く居心地の悪い広間の片隅に俺は立った。
視線の片隅には、常にあの人がいる。
恥じらいながらも男に腰を抱かれ、遊女のように媚びた笑顔を浮かべる智さんと・・
その光景を、悔しさだろうか・・それともあの人を籠から出してしまった後悔なのだろうか・・
笑顔を浮かべながらも、時折切なげに顔を歪め、拳を震わせる相葉雅紀の姿が、そこにあった。
馬鹿な男・・
智さんを籠から出したがために・・
なんて愚かな男なんだ・・・・
心の中で唾を吐きかけながら、それでも俺は彼・・相葉雅紀から目が離せないでいた。
「雅紀‥顔色が悪いようだが。少し休んだ方がいい‥部屋を用意させよう」
パチンと指を一つ弾く音に、俺は松本潤の元に駆け寄る。
その時、一瞬だけど智さんが俺に視線を向けた。
深い深い・・まるで海の底ように深い闇に、僅かな光を宿して・・・・
「部屋を用意してくれ」
「はい・・」
「俺の大切な友人だ。くれぐれも失礼の無いように頼む」
「承知いたしました」
軽く頭を下げ、相葉雅紀に向き直り、
「どうぞこちらへ・・」
と、他の招待客には気取られないように、そっと広間の入口まで促した。
「済まないね、どうもこういった場は苦手でね・・」
広間を出ると同時に足を止め、相葉雅紀が堅苦しく着込んだ背広の釦を外した。
「いえ・・。あのこちらへ・・」
俺達はそれ以上会話を交わすことなく、赤い絨毯を敷き詰めた階段を登ると、来客用にと用意された部屋の扉を開けた。
「何か必要な物がございましたら、ご用意しますが・・」
部屋に入るなり、寝台に倒れ込むように仰向けになった相葉雅紀を横目に、俺は預かった上着を衣紋掛に吊るした。
「特にはない・・」
「そう・・ですか。では、私はこれで。ごゆっくり・・」
腕で顔を覆ってしまった相葉雅紀に向かって頭を下げ、俺は踵を返した・・その時、
「ちょっと待って? 君はもしや智の・・」
相葉雅紀の手が俺の手首を掴んだ。