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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第11章 海誓山盟


僕の手を包む翔君の手から力がすっと抜けて、瞬間、翔君が崩れるようにその場に倒れた。

「いやっ‥、ねぇ、しょ‥くん‥?」

ぐったりとした身体を乱暴に揺すり、震える声で名前を呼んだ。

「お願い‥僕を一人にしないで‥」


神でも仏でもいい‥

もしそこにいるのなら、

もうこれ以上僕から大切な人を奪わないで‥


僕は青ざめた頬を両手で包み、僅かに開いた唇に自分のそれを重ねた。


お願い‥



その時ぴくりと睫毛が震えて、

「けほっ‥、ごほごほっ‥」

僕の腕の中で翔君が身体を丸め、激しく咳き込んだ。

「しょ‥く‥ん‥?」

「さと‥し‥?」

一頻り咳き込んで、漸く顔が本来の色を取り戻すと、僕の呼びかけに、掠れた声が答えた。

「翔君、翔君‥しょお‥く‥ん‥」

「情けないな、おれ‥」

翔君の手が伸びて、僕の頬をするりと撫でる。

「智のこと、もう二度と泣かせないって誓ってたのに‥、結局泣かせちゃった‥」


ううん、翔君は情けなくなんかない‥


そう言いたいのに、上手く声に出来なくて、僕はただただ首を横に振った。

「ねぇ、もう一度聞かせてくれる?」

「何‥を‥?」

僕の頬を濡らす涙を、一粒一粒丁寧に翔君の指が拭い取って行く。

「だから、おれのこと好きだ、って‥。もう一度ちゃんと聞かせて?」

ゆっくりと身体を起こした翔君が僕を覗き込む。


好き‥

翔君が好き‥


心の中でならちゃんと言えるのに、声に出そうとすると上手く出来なくて‥

僕は俯いたまま、握り締めた両手をじっと見下ろしていた。

「智、おれはね、おれの父様が智の両親を死に追いやったって知った時‥、ううん、もっとその前から、智がどんな人間であろうと、その小さな背中に何を背負い込んでいようと、智の全てを受け入れるって覚悟を決めてたんだ」

「翔‥君‥」

僕の背中を暖かな腕が包み込む。

瞬間、僕の胸がじんわりと熱いものが広がって行くのを感じた。


ああ、そうか‥

これが‥この感情が愛するってことなのか‥

「好き‥、翔君が好き‥」

優しい笑顔が、僕を包む腕が‥翔君の全てが僕は好きなんだ。
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