愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第11章 海誓山盟
すると
「憎い‥‥憎い‥憎い、憎くて堪らないよ!」
智の瞳はぎらりと光り、一気に燃え上がった暗い焔がゆらりとおれを吞み込もうとしてるかのように見えた。
「なんで、僕がここにいると思う‥?毎日、毎日あの男の玩具として弄ばれて‥辱しめを受けて‥‥そんな思いまでして、ここにいると思う?」
怒りを抑え込もうとするその声は震えて‥
「‥わからないよね‥苦労知らずの君には。」
別人のような雰囲気を纏った智に圧倒されたおれは凍りついたように動けなくなって、肌蹴たままの胸をするりとなぞられ‥
その指先にまで暗く冷たい焔が灯っているかのようで、触れられた皮膚は粟立っていく。
言葉を失ってしまったおれを蔑むように見た智は
「君たちを破滅させてやろうって‥、父様と母様の仇を討とうって‥それだけを考えて、ただそれだけのために‥好きでもない男に身体を差し出してきたんだ。憎しみだけが僕の支えだった。そんな気持ち‥君にはわからないでしょ⁈」
辛かった過去を鋭利な刃に変えて、その刃先をおれの胸に向けた。
息をしようとすれば一気に貫かれそうな悲しみの刃‥
これを‥おれの胸に突き刺せば智の気持ちは楽になるんだろうか‥
おれは智の抱えている悲しみと憎しみの大きさに、自分までも押し潰されてしまいそうだった。
そんな深い闇を知ることも無く生きてきたおれには‥
「‥わからない‥、おれには智の悲しみの全てはわかりようが無い‥。」
「だったら僕のことは‥‥」
「でもっ、わかりたいんだ、おれ‥智のことが好きだから、無理だってわかってるけど償わせて欲しい‥!どんなことでもするから‥!」
「できっこない!そんな簡単なことじゃないんだ!‥それに翔君は‥優しすぎる、綺麗すぎる‥‥僕なんかに関わっちゃいけない人なんだ‥!」
慟哭し悶えるように言い放った智は、ぎりぎりまで溜めた涙を零すまいとしてたけれど
「‥好きだから‥‥翔君のこと、好きだから‥、巻き込みたく‥ない‥‥」
智は振り絞るように紡いだ言葉と共に、
つーっと‥一筋‥
まるで行き場をなくした想いにも似た涙を零してしまった。