愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第11章 海誓山盟
寝巻きの襟を肩から落とし、潤との情交の痕跡が色濃く残る肌を月明かりの下に晒した。
ごくり‥、と一瞬息を飲んだような音が聞こえた。
けど、翔君はその場から微動だにせず、ただ悲しい目をして僕を見つめていた。
「ふふ、出来ないんでしょ?だったらさっさと出てって!」
これ以上僕を惨めにさせないで‥
僕は床に落ちた寝巻きを広い上げると、震える手で袖を通した。
そして翔君を振り返り、
「分かったでしょ、僕がどんなに穢い人間か‥。だからもう行って‥?」
涙で声が震えるのを気取られないよう、唇をきゅっと噛み、掻き合わせた襟元を握る手が震えるのを、血が滲む程握り締めて堪えた。
終わった‥
これで僕の淡い初恋も終わり‥
そう思った時だった。
ふわりと僕の身体が暖かい物に包まれ、僕は咄嗟に身を固くした。
「君は穢くなんかない。その身がどれだけ情慾に塗れようと、君の心までは穢れちゃいない。そうだろ?」
背中から回された腕が僕の手を包み込む。
「君の心はいつだって真っ白なままなんだよ?」
違う‥
違う違う違うっ‥!
僕は翔君が思う程清らかな人間でもなんでもない。
悪魔に身も心も売り渡した、愚かな人間なのに‥
「智、君はさっき“僕が抱けるか”と言ったね?」
でも翔君は答えてくれるどころか、指の先一つですら動かしはしなかった。
ただ憐れむように僕を見つめていただけ‥
「抱けるよ‥?違うな‥君を抱きたい‥」
「嘘‥。無理しなくてもいいよ‥」
だってその証拠に、僕に触れた部分が小さく震えてる。
「無理なんかしてない。君がそれを望むのであれば、だけどね?」
僕の肩口に、こつんと翔君の額が乗せられた。
「でもね、智‥。おれは君の身体が欲しいわけじゃないんだ。ただ智の笑顔を見たいだけなんだ。智の心からの笑顔を‥。だから約束してくれないか?君の希望を叶える代わりに、おれの希望も叶えてくれるって‥」
ぴったりとくっついた背中から、翔君の鼓動が伝わって来る。
「僕の‥笑顔‥?」
笑い方一つも忘れてしまった僕に?
肩口に乗せた翔君の首が、こくりと小さく頷いた。