愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第11章 海誓山盟
智side
耳にかかる熱い吐息とそして、僕の名を呼ぶ愛しい人の声‥
「‥起きて‥智‥、おれ、本物だから‥」
続けて髪に触れた柔らかな感触に、それが夢なんかじゃないってことを知った。
「どう‥して‥?」
どうして翔君がここにいるの?
そう問いたいのに、驚きのあまり声が出ない。
「智に会いたくて‥。どうしても話がしたかったんだ」
「でも鍵が‥」
この部屋の鍵は、この部屋の主である潤と、その世話係の澤しか持っていない筈。
なのにどうして翔君が?
「それは‥ちょっと言えないんだけど‥」
口篭るところを見ると、きっと危険なことをして鍵を手に入れたに違いない。
咄嗟にそう思った僕は、布団から飛び起きると、翔君に背中を向けた。
「出てって‥。早くここから出てって‥」
もしこのことがあの人の耳に入りでもしたら‥
駄目だ、これ以上翔君を危険な目に合わせることは出来ない。
「何でっ‥!折角こうして二人きりになれたんだよ?なのになんでそんなこと‥」
僕だって‥
僕だって翔君と二人きりで、ゆっくりとした時を過ごせたら‥何度も願ってきた。
そう出来たらどれだけ幸せだろうと‥
でも僕が側にいたら、必ず翔君を悲しませることになる。
だからこそ、翔君は僕の両親を死に追いやったあの男の息子なゆだ、と憎むことで自分の気持ちを誤魔化して来たのに‥
それなのに‥
「智、君が好きだ。おれは君を守りたい。だから‥君が背負っている物を、少しだけおれに分けてくれないか?」
そんな風に優しくされたら、その決心さえ揺らぎそうになる。
「お願いだ、智‥」
絞り出すような翔君の声から、翔君がどれだけ僕のことを思い、そして苦しんでいるのかが分かる。
僕だって、何の躊躇いもなくその胸に飛び込んで行けたら、どんなに楽になることか‥
でもそれは叶わないこと‥
僕はゆっくり寝台を降りると、月明かりの差し込む窓辺に立った。
「僕のことが好きだ、って言ったよね?だったら僕を抱ける?」
数多(あまた)の罪と、男達の慾の証を浴び続けてきた、この穢れた身体を、君は抱けるの?