愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第11章 海誓山盟
翔side
夜も更けてきて、使用人たちが屋敷の中を立ち歩く気配もなくなった頃、小さく木扉を叩く音がして、僅かに開いた隙間から小声でおれを呼ぶ声がする。
慌てて長椅子から立ち上がったおれは木扉まで駆け寄ると、そこには嬉しそうな表情(かお)をした和也が立っていた。
「坊ちゃん、上手くいきました!」
そう弾んだ声で言って、開いた手のひらの上に乗せたあの鍵をおれに見せてくれる。
「ああ‥よかった!まさか本当に上手くいくなんて‥」
おれはお酒の効力を知らないから、雅紀さんの言う通り本当に澤が寝てくれるか半信半疑だった。
「私もびっくりしました‥。澤さん、ばったりとちゃぶ台に突っ伏して寝てしまったから、死んじゃったらどうしようかと思ったくらいでした。」
和也も初めて目の当たりにしたそれが余程珍しかったのか、少し興奮気味に話してくれて。
「そんなに‥ばったりと寝ちゃうものなの‥?」
「そりゃもう‥。だから多分朝まで目が覚めることは無いと思います。」
「そっか‥すごいもんだね、お酒って‥」
「ええ‥、それよりこれを‥、早く智さんのところに行ってあげて下さい。」
澤の醜態に驚いていたおれに、和也はあの鍵を差し出す。
これで‥やっと智に会える‥
おれは宝物のようなそれを受け取ると
「ありがとうね、和也。本当にありがとう。」
無理を承知の上で手に入れてくれたことに心底感謝した。
「明け方までには‥これをどこに戻せばいい?」
ずっと和也を待たせる訳にもいかないと思ったおれは、自分で鍵を返しに行こうと思った。
兄さんは帰ってこないんだもの‥
ゆっくり話をしたい‥
朝まで‥心ゆくまで話せば、きっと智も心を開いてくれるに違いない‥そう思った。
すると和也は一瞬視線を彷徨わせて
「えっと‥それは‥、澤さんの首に掛けなきゃならないんです‥」
って躊躇いがちに言う。
「大丈夫、なんとかする。澤が目を覚ますまでには、おれが戻しておく。」
だって智と一緒にいたいから。
おれがきっぱりとそう言うと、和也は微かに頷いて‥木扉を離れていった。