愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第11章 海誓山盟
和也side
澤さんが風呂から上がったのを見計らって、俺は酒瓶とお猪口を手に澤さんの部屋の木戸を叩いた。
「おや、こんな時分にどうしたんだい?坊ちゃんの支度は済んだのかい?」
木戸の隙間から顔を出した澤さんは、俺の顔を見るなり顔を険しくした。
だ、駄目だ‥、足が震える。
けど、ここで怯んでいちゃいけない。
坊ちゃんの思いを成就させるためには、俺が頑張らなくちゃ‥
「明日の支度ならもう‥。それより、珍しいお酒を頂いたんですけど、澤さんお好きでしょ?」
俺は手に持っていた酒瓶を澤さんの前に差し出した。
「おやまあ、こいつは中々の逸品じゃないか」
澤さんは酒瓶を俺の手から引ったくると、瓶をしげしげと見ながら、こっそり舌舐めずりをした。
よし、かかった!
俺はその一瞬を見逃さなかった。
「良かったらお酌しますよ?あても用意してきたし」
「そうかい?でもこんな珍しい酒をどこで?」
「それは‥その、坊ちゃんのお使いでさる方のお屋敷にお邪魔した際に内緒で持たせて下さったんですが、私どうにもお酒は不習いなもので‥」
澤さんに相手に下手な嘘は通用しない。
でも雅紀さんの名前を出すことはどうしても出来ず、俺はその場を適当に誤魔化すことにした。
「それで私に?」
「だってお好きだと伺ったし、それに今日は潤坊ちゃんもお出かけでいらっしゃらないでしょ?こんな時も滅多にないし、だからとお思って‥」
人間ってのは不思議なもので、嘘をついている時や、心にやましい事があるとやたらと口数が多くなるらしい。
「言われてみれば確かにこんな機会も滅多にあるもんじゃないねぇ‥。たまにはいいかもしれないね、羽目を外してみるのも」
澤さんは木戸を大きく開くと、辺りを気にしながら俺の手を引き、部屋に招き入れた。
「さあ、お座り?」
敷いた布団を部屋の端に寄せ、ちゃぶ台を広げると、澤さんは俺の持参したお猪口ではなく、湯呑みに酒瓶を傾けた。
どうやら澤さんが酒豪だとい言う噂は本物らしい。