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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第11章 海誓山盟



その日、兄さんは昼頃から出掛けていって、どうやら横浜の方に一泊してくるようだと澤が言っていた。


「何でもお仕事に関係のある外国の方とのお引き合わせだそうです。あちらのご招待らしくて‥」

和也は茶海で温度の落ち着いたお湯を急須に入れると、ゆっくりとした動作で湯呑に注いでいく。

一見、落ち着いて見えるようでも、その表情は強張っていて

「ごめんね、おれが鍵を見つけられなかったから、また和也に怖い思いさせることになるけど‥」

自分が感じた足が竦むような怖さを思うと、申し訳なさでいっぱいだった。


すると和也は茶托にのせた湯呑をそっと置きながら

「それなんですけど、実は‥雅紀さんから少しばかり知恵をつけてもらったんです。」

と少しはにかみをみせる。


「知恵‥?知恵って、どんな?」

鍵を拝借するのに知恵もなにも無いと思うんだけど‥


「雅紀さんが知るところだと、澤さんは美味しい酒には目がないらしくて。先ほどあちらの遣いの方が届けて下さったんです。」

「じゃあ‥それを澤に?」

「はい、私が頃合いをみて部屋に持っていくようにと。」

「そしたらどうなるの‥?」

おれは酒なんて口にしたことが無いし、どうなるかなんてわからなくて。


「眠くなるらしいです。特に澤さんはお年だから、よく効くだろうって。」

和也はすくりと笑って‥

「へぇ〜‥、それは雅紀さんでないと思いつかない策だね。」

「ですね。潤坊ちゃんがお帰りにならないって分かってるから、澤さんも安心して眠れるって寸法らしいです。」

まるで悪戯を仕掛ける子供みたいな表情(かお)で、そう言った。


「すごいや‥。お酒にそんな力があるなんて知らなかった‥」

「本当に。雅紀さんが言う通りに澤さんがぐっすり寝てくれたら、どれだけ安心できることか。」


本当に‥澤が朝まで寝てくれるなら‥

智とちゃんと話をすることができる。


「頼むね、和也。やっぱり和也にしかできないことになってしまうけど、お願いするね?」

おれは藁にも縋る思いで、頼みの綱になる彼を見つめた。


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