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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第11章 海誓山盟


夢じゃなかった‥


「うん‥、僕だよ‥、智だよ‥」

「智、元気だった?」

「うん。翔君は‥?」

「おれは‥、おれも元気だったよ」

嫌われた‥そう思った瞬間、もう二度とこんな風に翔君と言葉を交わすことはないだろうと思っていた。

取り留めのない会話‥

それが今の僕にとってどれだけ嬉しいことか‥

砂漠のように枯れ果てていた心に、少しずつ水が溢れて行くような‥、そんな気にさえなる。

「智に会いたいよ‥」

顔なんて見えなくても、翔君が今どんな表情(かお)をしているのか、声だけで分かる。

「僕も会いたい‥。けど‥」

出来ることなら、僕達の間に立ちはだかる壁を蹴破って、君の元へ‥

君の胸に飛び込んでしまえたら‥

でもそれは到底叶わない夢。

君の胸に飛び込んだ瞬間、僕はきっと君のその真っ白な翼を、この黒く染まった手で捥ぎ取ってしまうだろうから‥

今なら‥今ならまだ間に合う。

「ごめんね、翔君‥」

翔君を僕のこの穢れた手で闇の色に染めることは出来ない。

「どうして‥、なんで智が謝ったりするの?」

「僕は君に相応しくない‥」

だって翔君には‥大好きな君には、あの雲のようにいつまでも真っ白な心を持っていて欲しいんだ。

それだけが僕の切なる願いでもあるんだ。

「そんなこと‥、いいかい智、良く聞いておくれ?おれは智が好きだ。誰が何と言おうと、その気持ちだけは変わらない」

壁越しに、翔君の真っ直ぐな想いが伝わって来る。

「俺はいつか兄さんから君を奪い取る。それまで待っていてくれるかい?」

「翔‥君‥」

「おれ、絶対に諦めたりしないから‥。おれを信じて?」


翔君の言葉に偽りのない言葉を信じたい。


でも僕は‥、僕にはまだやり遂げなければならないことがある。


陽だまりのように、暖かな愛で僕を包んでくれた両親を死に追いやったのは、紛れもなく君の父親‥

君の父親を殺すことこそが、僕の宿願でもあり、使命でもあるんだ。

だから‥


「ごめ‥ね‥、翔‥く‥。ごめん‥」


もう僕のことなんて忘れて‥
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