愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第11章 海誓山盟
智side
しんと静まり返った広い部屋に一人でいるのは酷く退屈で‥
僕は澤が退屈凌ぎにとくれた賽子(さいころ)を転がしては拾い、また転がしてを繰りかえした。
でもそれだって何度も繰り返していれば、いい加減飽きてくる。
「はあ‥」
僕は溜息を一つ落とすと、巾着の中に賽子を仕舞い、背中を壁に凭せ掛けた。
一人でいることなんて、もう慣れた筈なのに‥
なのにどうしてこんなにも寂しさだけが募って行くのか‥
「寒いよ‥」
心が寒くて寒くて堪らないよ‥
誰でもいい、僕を温めて欲しい。
抱えた膝を熱い物が頬を伝って濡らした。
その時、
「‥智!」
僕の名を呼ぶ声が聞こえて、僕は咄嗟に壁に耳を当てた。
「ごめん‥おれ、何にもできなかった!助けてあげたいのに!」
翔‥君‥?
ううん、そんな筈は‥
だって翔君はもう僕のことなんて‥
でも断片的に聞こえて来る声は紛れもなく翔君の物。
続けて聞こえて来る壁を叩く音だって‥
「会いたいのに!智に会いたい‥のに‥」
ああ‥、僕は夢でも見ているんだろうか‥
それともあまりに一人でいるのが辛くて、とうとう気が触れてしまったのだろうか‥
どちらでもいい、夢だって構いやしない。
僕は手をきゅっと握ると、恐る恐るそれを二度、壁に叩き付けた。
「翔‥君?翔君なの?」
返って来ることなどないと知りながら、それでも名前を呼ばずにはいられなかった。
「翔君、僕だよ‥智だよ?」
お願い‥、もう一度だけ声が聞きたい‥
思いの丈をぶつけるように、僕は固く握った手を壁に叩き付けた。
「翔君‥、翔‥君‥、しょお‥」
掠れた声で、愛しい人の名を何度も呼ぶ。
でも一向に返事が返って来ることはなく‥
やっぱり夢だったんだ‥
諦めかけた時だった、
「さと‥し‥?智なんだね?」
壁の向こう側から聞こえて来た愛しい人の声に、僕の胸が熱く震えた。