愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第11章 海誓山盟
翔side
決意を固めたおれは父様の書斎に忍び込む機会をうかがった。
和也の話によると、毎朝父様が出掛けた後に掃除をした後は、殆ど誰もその部屋に入ることはないらしい。
それはすごく好都合なんだけど、書斎は一階にあって、そこにたどり着くまでには食堂や母様の休んでいる部屋の前を通らなくちゃならなくて‥
用も無いおれがうろうろしていたら、誰かしらに見られて必ず声を掛けられてしまう。
そこが最大の難関‥。
場所が場所だけに、和也を見張りに立たせる訳にもいかないし、本当に一人でやらなくちゃならない。
やれる‥
おれがやらなくちゃ‥
絶対に鍵を手に入れて智に会いに行くんだ。
その言葉を呪文のように唱えながら部屋を出ると、階段の手すりから階下の様子をうかがう。
朝食も済んだし‥父様も兄さんも出掛けてしまった。
それから随分と時間も経ったし、行くなら今しか‥
おれは耳を澄ませて人の気配がないのを確かめると、足音を忍ばせて階段を降りる。
一歩‥また一歩‥‥
全神経を研ぎ澄ませて食堂の前を通り過ぎると、そのまま廊下をこそこそと奥へと進んでいく。
本当に生きた心地がしない‥
でもおれは和也にずっとこんな思いをさせてたんだ。
今度はおれがなんとかしなきゃ‥
時間にしたら数秒のことなのに、恐ろしく長く感じながら書斎の木扉に手を掛けると部屋の中へと身を滑り込ませる。
そして静かに閉じた扉に背中を押し当てると耳を澄ませて外の気配をうかがった。
大丈夫‥かな。
廊下で足音も話し声もしないのを確かめて‥漸く後ろを振り返って部屋の中をぐるっと見渡す。
まさか父様の部屋に忍び込むなんてことをする日が来るなんて思わなかった。
これから自分がすることの重大さを考えると、全身から汗が吹き出し、心臓は早鐘のように打っていて。
おれは震える手をぎゅっと一度握ると、まずは‥書斎机に近づいて一つずつ引き出しの中を覗いていく。
一糸の乱れも無い引き出しの中は、迂闊に触って乱そうものならすぐに違和感を察知されそうだった。