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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第11章 海誓山盟


智side


気怠い身体を起こし、瞼を擦りながら部屋の中を見渡す。

「なんだ‥もういないのか‥」

散々僕を嬲り者にしておいて、よくも平然と‥

所詮外面が良いだけの成り上がり貴族なんてそんなものかもしれないな‥

潤も‥それから潤の父親も、貴族の仮面を被った外道に過ぎないのだから‥


床に散らばった寝巻きを拾い上げ、慾の痕跡が色濃く残る身体に纏う。

ついこの間まで僅かに残っていた翔君の匂いは、今ではすっかり僕のそれへと変わっている。

それでもこうして翔君の面影の残る寝巻きに包まれていると、なんだが翔君の腕に包まれているような気がして、僕はきゅっと両膝を抱えてそこに頬を埋めた。


会いたい‥


あんな醜態まで晒したのだし、きっと翔君はもう僕のことなんて嫌いになった筈。

だから諦めなくては‥、そう思えば思う程、成す術なく募って行く彼への想いに胸が熱くなる。

僕は翔君と僕との間に立ちはだかる壁に背を預けると、そこに耳をぴたりと寄せた。

もう二度と僕に語りかけてはくれないだろう、厚くて高い壁に‥


翔君、君に会いたい‥

会うことが叶わないのなら、せめて声だけでも‥

ううん、そんな贅沢は言わない。

だからもう一度だけ‥、もう一度だけこの壁を‥


無理矢理胸の奥に閉じ込めた想いが、涙となって溢れ出す。

両親の仇の息子なのに‥、僕を地獄の底へと突き落とし、何も知らず、ただ純粋で無垢だった僕を、真っ黒な闇の色に染めた男の息子なのに‥

なのにどうしてこんなにも彼に心惹かれてしまったのか‥

どうしてこんなにも胸が締め付けられるのか‥


「翔君‥、君が好き‥」

この先決して告げることのない言葉を口にする。


「誰よりも翔君‥、君が‥」


何度拭っても、次から次へと止まることを知らず溢れる涙が、僕の頬を濡らした。
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