愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第11章 海誓山盟
和也side
どうしてそんな簡単なことに気が付かなかったんだろう‥
一つしかない物を手に入れようとするから、危険が伴うのであって、幾つもある中からだったら、鍵の一つや二つ無くなっていたって、そう大して気にはならない筈だ。
しかも、旦那様が坊ちゃんの留守に部屋に立ち入ることは、まず考えられない。
もし鍵が手に入れば、坊ちゃんは自由に潤坊ちゃんの部屋に出入りすることが可能になる。
なんでもっと早くに気が付かなかったんだろう‥
「ねぇ、ちょっと待って?それってまさかおれに父様の部屋から鍵を盗み出せ、ってこと?」
漸く事の詳細を飲み込んだ坊ちゃんが慌てたように顔を目を丸くする。
まあ、理屈ではそうなるけど‥
「おれにそんな事が出来るだろうか‥。それにもしそんな事をして父様に知れたら‥、きっと酷く怒るだろうし‥。和也、おれ怖いよ‥」
坊ちゃんの不安は俺にも分からなくもない。
何しろ旦那様は、潤坊ちゃんとは比べ物にならないくらい、恐ろしい人だから。
「確かに危険が無いとは言い切れませんが、それが出来るのは坊ちゃんしかいないんです」
代われるものなら俺が‥とも思うけど、大体俺は旦那様の書斎に入ることすら許されていないんだから仕方ない。
「おれに出来ると思うかい?」
「出来ますとも。私も及ばずながらお手伝いはしますから」
俺はそっと坊ちゃんの手を両手で包み込むと、不安そうに瞳を揺らす坊ちゃんを見上げた。
「大丈夫‥。坊ちゃんなら出来ますよ。だって私にも出来たんですから」
それに坊ちゃんには、誰にも負けない智さんへの熱い思いがあるのだから‥
「そうだね、おれにだって出来るよね?よし和也、済まないけど手を貸してくれるかい?」
「はい、勿論ですとも!」
そうと決まれば‥と、坊ちゃんは俺の手を解き、意気揚々とばかりに両腕を組んだ。
ついさっきまで不安に揺れていた瞳には、もう光が宿っていた。