愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第11章 海誓山盟
和也side
初めて足を踏み入れた雅紀さんの仕事場は、その何もかもが俺の目には物珍しく見えて、大人しくしているようにと言われても、つい落ち着かなくてあちらこちらに視線を巡らせてしまう。
尤も、ここにいる人達の目には、俺も十分物珍しい存在に映っているようだけど。
それにしても‥
雅紀さんの仕事をしている姿のなんて凛々しいことか‥
普段とは全く違う様子の雅紀さんに、思わず見惚れてしまう。
「退屈かい?」
「えっ、あ、そんなことは‥。ただ場違いかなって‥」
見渡す限り、忙しく動き回っている人達の殆どが貴族階級。
俺みたいな使用人風情はどこを見ても見当たらない。
こんな時、俺は嫌でも思い知らされてしまうんだ、身分の違いってやつにね。
「場違い、か‥。確かにそうかもしれないが、君は私の大切な“友人”なのだから、堂々としていればいいよ」
“友人”‥その一言に、胸がちくりと痛む。
仕方ないのは分かってる。
人目も憚らず“恋人”って言えないことだって、ちゃんと分かってるけど‥
“友人”と言われたことが寂しくて、俺は膝の上に置いた手で着物をきゅっと握った。
やっぱりいくら雅紀さんに言われたからって、俺には場違いだよな‥
こっそり帰ってしまおうか‥
帰り道なんて人に尋ねれば何とかなるし‥
雅紀さんが仕事に集中しているのを見計らって、そっと腰を上げようとしたその時、
「和也、君は算盤(そろばん)は出来るかい?」
雅紀さんが算盤を手に、俺を振り返った。
「え、ええ、まあ多少は‥」
「そうか、なら良かった。ここの計算がどうにも合わなくてね?少し手伝ってはくれないだろうか?」
「は、はあ、私でお役に立てるなら‥」
それが雅紀さんの優しさだってことは、隣に座って算盤の玉を弾き出してすぐに分かった。
きっと俺が居心地悪そうにしてたから、だよね?
俺は熱くなる目頭を何度も擦りながら、無心で玉を弾いた。