• テキストサイズ

愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第11章 海誓山盟


和也side


初めて足を踏み入れた雅紀さんの仕事場は、その何もかもが俺の目には物珍しく見えて、大人しくしているようにと言われても、つい落ち着かなくてあちらこちらに視線を巡らせてしまう。

尤も、ここにいる人達の目には、俺も十分物珍しい存在に映っているようだけど。

それにしても‥

雅紀さんの仕事をしている姿のなんて凛々しいことか‥

普段とは全く違う様子の雅紀さんに、思わず見惚れてしまう。

「退屈かい?」

「えっ、あ、そんなことは‥。ただ場違いかなって‥」

見渡す限り、忙しく動き回っている人達の殆どが貴族階級。

俺みたいな使用人風情はどこを見ても見当たらない。

こんな時、俺は嫌でも思い知らされてしまうんだ、身分の違いってやつにね。

「場違い、か‥。確かにそうかもしれないが、君は私の大切な“友人”なのだから、堂々としていればいいよ」

“友人”‥その一言に、胸がちくりと痛む。

仕方ないのは分かってる。

人目も憚らず“恋人”って言えないことだって、ちゃんと分かってるけど‥

“友人”と言われたことが寂しくて、俺は膝の上に置いた手で着物をきゅっと握った。


やっぱりいくら雅紀さんに言われたからって、俺には場違いだよな‥

こっそり帰ってしまおうか‥

帰り道なんて人に尋ねれば何とかなるし‥


雅紀さんが仕事に集中しているのを見計らって、そっと腰を上げようとしたその時、

「和也、君は算盤(そろばん)は出来るかい?」

雅紀さんが算盤を手に、俺を振り返った。

「え、ええ、まあ多少は‥」

「そうか、なら良かった。ここの計算がどうにも合わなくてね?少し手伝ってはくれないだろうか?」

「は、はあ、私でお役に立てるなら‥」

それが雅紀さんの優しさだってことは、隣に座って算盤の玉を弾き出してすぐに分かった。


きっと俺が居心地悪そうにしてたから、だよね?


俺は熱くなる目頭を何度も擦りながら、無心で玉を弾いた。
/ 534ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp