愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第11章 海誓山盟
すると和也はしゅんと尻尾を下げてしまい‥
「そう‥ですよね、申し訳ございませんでした‥。いくら坊ちゃんに言われたからって、こんなところまで押しかけてしまって‥。」
すごすごと帰ってしまいそうな雰囲気になった。
「くくっ、我が儘な坊ちゃんにこう振り回されるのでは堪ったものではないね?」
私は恐縮しきりな恋人の髪を撫でていた手を背中に回すと、建物の中へと連れて入るつもりでそっと押す。
「え、あっ、雅紀さん⁈ど、どこに?」
まさかそんなことをされるとは思いもしていなかったのか、慌てたような表情(かお)で私を見上げる。
くくっ、可愛らしいものだ。
「何処と聞かれても‥私が勤めているところだが?こんな寒いところで立ち話をしていたら風邪をひいてしまうよ。」
「あ、えっ、俺、か、帰ります!」
「どうやって?此処が何処なのか分かっているのかい?」
「え‥?何処って‥‥」
驚き立ち止まって後ろを振り返った和也は呆然とした表情(かお)になって、再び私を見上げて
「ここ‥何処なんですか‥?」
と今度はまるで迷子になった子犬さながらの仕草を見せた。
そんなことを気を留める余裕も無いほど急かされたとは。
可哀想に‥‥と思う反面、クスリと笑ってしまう。
余裕の無いままの和也を帰してしまえば、二人揃って危ないことをしでかすのでは無いかと案じてしまい
「くくっ、本当に可愛い子だ。仕方がない、昼の休みになったら屋敷まで送ってやらねばな。迷子にでもなって日が暮れても辿り着かないなんてことになったら、それこそ大目玉なんじゃないのかな。」
少しでも気持ちが軽くなればと、明るい声でそう話す。
というよりも、こんな処で可愛い恋人を独りぼっちに出来るほど心臓が強くないだけなのだが。
「やっ、でもっ、雅紀さんお仕事は⁈」
「ちゃんとするよ。君が大人しく座って待っていてくれればの話だがね?」
私は背中を押されてあたふたとしている恋人を建物の中に連れて入ると、物珍しそうに視線を寄越す同僚たちの間を縫って、自分の席の隣へと座らせた。