愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第11章 海誓山盟
雅紀side
そうか‥、やはり翔君は知っていたのか‥。
便箋の文字を追う私を食い入る様に見つめている和也に視線を移すと
「和也も聞いてしまったのかい?‥その、智の声を‥」
そう聞かざる得なかった。
すると彼はきゅっと唇を噛んで、僅かに頷く。
翔君の部屋は松本のそれと隣り合わせなのだから、情交の声が洩れ聞こえるのは仕方の無いことと思えるが、和也まで耳にしてしまうほどとは思ってもみなかった。
しかも松本が祝言を挙げるから智をどうにかするのではないかと、随分と気を揉んでいるらしく‥
「翔君はそんなに落ち着きを失くしているようなのかい?」
あれほど言い聞かせたつもりだったのに、我を忘れかけているような筆の運びが気になった。
「はい‥、兎に角智さんに会って話がしたいの一点張りで‥。」
ほとほと困り果てた和也の様子から、それで済むとも思えない。
今は事を起こすには時期尚早‥。
「会えば‥気が済むと?」
「多分‥、でも相当焦ってらっしゃるのか、俺なんかに土下座まで‥。もうどうして差し上げたらいいのかわからなくて‥。」
眉を下げた和也は、そう言って俯いてしまった。
そこまでとは‥
そんなことまでしてしまうほど気持ちが先走っているのか‥。
若さと激情の怖さを知っている私は、このまま翔君を放っておくことはできなかった。
それに和也も‥智のそんな姿は想像したくはなかったろうに。
私は俯く恋人の頬を包んで顔を上げさせると
「翔君の気持ちは充分にわかったよ。和也もさぞ辛かっただろうに。」
ここでできる精一杯の慈しみを込めて薄茶色の瞳を見つめる。
すると不安げな目をした和也は私の背広に手を伸ばしかけたけれど、往き交う人の声にはっとした表情(かお)になって‥
そのすぐにでも抱きしめてやりたい風情を宥めるように
「本当ならすぐにでもどうにかしてやらねばと思うのだが、今日は流石に仕事を放り出す訳にもいかなくてね。」
微笑みを添えてそう言うと、柔らかな髪をそっと撫でた。