愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第11章 海誓山盟
雅紀さんのお母さんはころころと喉を鳴らすと、冗談よ、と言ってまた鈴のような笑い声を立てた。
「雅紀さんの言ってた通りね?とても可愛らしいこと」
「雅紀さんが‥?」
驚きだった。
まさか雅紀さんが俺のことを話してるなんて‥思ってもなかった。
「雅紀さんたら、よっぽど貴方のことを気に入っているのね?とても楽しそうに貴方のこと話してくれるのよ?弟みたいに思ってるのね、きっと」
雅紀さんが俺のことをそんな風に‥
何だか胸がじんと熱くなるような、むず痒いようなそんな気分で、俺は自然と緩む頬を隠すように車窓に視線を向けた。
「さあ、着いたわよ?」
気付くとそこは、立派な建物の前で‥
「ここに雅紀さん‥が‥?」
とても俺みたいな使用人風情が簡単には立ち入れそうもない。
「ちょっとここで待ってらっしゃいな」
雅紀さんのお母さんは先に馬車を降りると、門番と何やら話始めた。
そしてハンケチを握った手を軽く揺らすと、馬車の中の俺に向かって手招きをした。
「あの、 私は‥」
「今雅紀さんを呼んで貰ってるから、少しの間ココで待ってなさいね?直に来ると思うから」
それだけを言うと、雅紀さんのお母さんは雅紀さんに良く似た爽やかな笑顔を残し、馬車に乗り込んだ。
俺は馬車が走り去るのを、ずっと頭を下げて見送った。
「そこにいるのは、もしや和也‥かい?」
声をかけられ頭を上げると、驚きを隠せないと言った表情(かお)の雅紀さんが立っていて‥
「あ、あの、翔坊ちゃんから取り急ぎのお手紙を預かってきて、それでその‥」
「それでわざわざこんな所まで?」
「‥はい」
だって坊ちゃんの言い付けだから‥
「で、その手紙とやらは?」
「はい、ここに‥」
俺は風呂敷包みを解くと、一番上に乗っていた封筒を手に取り、雅紀さんに差し出した。
「どれどれ‥」
雅紀さんは受け取った封筒を丁寧に開くと、中から取り出した便箋を広げた。
そして暫くすると、俺の顔をじっと見つめて、
「和也も聞いてしまったのかい?‥その、智の声を‥」
辛そうに眉を顰めた。