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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第11章 海誓山盟



眠れない夜を過ごしたおれは、昨日の今日で顔を合わせるのさえ気が進まないまま食堂で朝食を摂ると、早々に部屋へと戻った。


いくら急いでいるからといっても早朝に他家の門扉を叩かせる訳にもいかず、和也は遣いに出るまでの僅かな時間をおれの部屋で待っていた。

和也はおれの苛立ちに気圧されているのか、背中を丸めて緊張した面持ちで長椅子の端に座っている。


「本当に頼んだよ?雅紀さんも今日から仕事に出掛けられるかもしれないから、その時は追い掛けてでも渡してきてね。」

正月も三が日を過ぎれば、雅紀さんだっていつまでものんびりしてはいない筈。

「お、追い掛けてまでって‥、」

おれのあまりの言い様に面食らった和也は、困惑した表情を浮かべた。

今までそんな無理難題を言ったことが無かったから仕方がないんだろうけど、それぐらいおれの気持ちは焦りを感じていた。


「坊ちゃんのお気持ちも分かりますけど‥急いては事を仕損じるというか、」

「じゃあ和也はいいの?このまま智がどうにかされても。」

「駄目です!それは駄目ですけど、雅紀さんだって考えてくれてる訳だし‥」

「それはおれだってわかってるよ。」

わかってるけど‥事態が変わりそうなんだ。


「では少し落ち着いて下さい、坊ちゃん‥。使用人たちの間では潤坊ちゃんの祝言の話すら伝わってないんです。それなりに準備もいるでしょうに‥。」

和也の言い分も尤もだとは思う。

正月早々に祝言を挙げるとは言っても、松本家の跡取りが結納も交わさずにいきなりってことはないだろうから、そんなに焦らなくてもいいってことぐらい十分にわかってるよ。


「兎に角、そろそろ行って参ります。」

これ以上話しても禅問答にしかならないと思ったのか、風呂敷包みを胸に抱いた和也はそそくさと長椅子を立つと、少し頭を下げて部屋を出て行ってしまった。


「ああ‥もう‥‥」

おれはあれほど雅紀さんに言われたばかりだって言うのに、冷静さを失くしている自分がすごく嫌になった。


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