愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第11章 海誓山盟
暫くして漸く布団から顔を出した坊ちゃんは、真っ赤に泣き腫らした目をして、強く握った拳を震わせた。
「悔しいよ‥、悔しくて悔しくて仕方ないよ‥」
「坊ちゃん‥」
「こんなに近くにいるんだよ?なのにおれは智に何もしてやれないなんて‥、自分が情けないよ‥」
それは俺だって同じ‥
智さんがその身を闇に堕として行こうとしているのを知りながら、こうして手をこまねいていることしか出来ないんだから‥
「あ、それより‥。さっき父様が言っていたんだけど、どうやら兄さんに嫁を取らせるらしいんだ。それも近々‥」
「えっ‥?じゃ、じゃあ智さんは‥?まさか追い出す‥なんてことは‥」
まさかこのままって訳には、当然いかないだろう。
でも雅紀さんの推測だと、潤坊ちゃんは表にこそ出さないけれど、相当智さんに入れ込んでいるようだし‥
そう簡単に智さんを手放すようには思えない。
「おれもそれを心配してるんだ。それで、雅紀さんにお知らせしないと思ったんだけど‥」
赤く腫れた坊ちゃんの目選を辿ると、机の上には便箋が散らばっていて、床には鉛筆も転がっている。
そうか、手紙を書こうとした時あの声が‥
それにしても、潤坊ちゃんの祝言の前に何とかしないと‥
智さんがどこかにやられてからでは、元も子もない。
「ねぇ、和也‥。頼みがあるんだ」
「何‥です‥?」
「例の計画を実行する前に‥、ううん、兄さんの祝言の前に、一晩‥、いや二時でいいんだ、智と過ごす時間が欲しいんだ」
真剣な表情で坊ちゃんは真っ直ぐ俺を見つめると、ゆっくりと両膝を床に着き、額が床に着くまで腰を曲げた。
「ぼ、坊ちゃん?止めて下さい‥。さ、頭を上げて‥」
突然のことに驚いた俺は、咄嗟に坊ちゃんの前にしゃがみ込むと、小さく揺れる坊ちゃんの肩を撫でた。