愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第11章 海誓山盟
翔side
『馬鹿馬鹿しい‥。可哀想だと思うならお前が話し相手をしてやるといいさ。』
ついさっき兄さんが言った言葉が頭から離れない。
呆気に取られてしまったおれを置いて、兄さんはさっさと部屋に戻ってしまった。
それに父様だって‥あんな言い方‥
人を人とも思ってない二人の話に口を挟む隙間なんてどこにもなかった。
大体、兄さんの部屋には智がいるのに、お嫁さんが来てしまったらその存在が明るみに出てしまうんじゃないの‥?
それとも智を何処かへやってしまうつもりなんだろうか‥
まさか‥父様が言っていた玩具って、智のこと‥?
身の回りを綺麗にしておけって言葉は、智をどうにかしろって言ってたようにも取れる。
父様は兄さんの部屋に智がいることを知っているってことなの⁈
だとしたら‥‥
おれは二人の言葉を思い出して、背筋が凍りそうになった。
人を玩具呼ばわりする父様も‥
それを笑いながら承諾した兄さんも‥まともじゃない。
そんな恐ろしいことを平気で口にした二人をおぞましいとさえ感じた。
父様は正月早々に祝言を挙げるって言ってたけど、いつにするつもりなんだろう‥。
それまでに‥いや、兄さんが智を何処かへやってしまう前に連れ出さないと!
おれは雅紀さんにそのことを知らせなきゃって慌てて便箋を取り出し、鉛筆を握ったその時‥‥
『あぁんっ‥、いいっ、じゅ‥さまぁっ』
突然高く聞こえた声に、びくりと身体が震える。
そしておれたちを阻む白い壁を振り返った。
また、だ‥また兄さんが智と‥
泣き声こそしないものの、明らかに快楽に濡れた智の声が聞こえてくると、堪らない気持ちになる。
くそっ‥
こんな近くにいるっていうのに、大好きな人が‥智が抱かれてるのを、指を咥えて見てなくちゃならないなんて!
今のおれはもう‥悲しみなんて感情を通り越して、大切な人を玩具だと言われた怒りの方が勝っていた。
許さない‥‥
「‥離せ‥、智に触れるな!おれの‥大好きな人を好き勝手にするなっ!」
沸々と湧き上がってくる怒りと、手を出せないもどかしさで腹わたが煮えくりかえりそうだった。
やめろ‥やめてくれ‥!
おれは途切れとぎれに洩れるその声から逃げるように、自分の両耳を塞ぐと布団の中に頭を突っ込んだ。