愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第11章 海誓山盟
智side
この男に嫁だって?
ふん‥、笑わせる。
どうせ金か家柄目当てだろう‥
じゃなきゃ、そんな年端もいかない娘を、この男に宛てがう筈がない。
なんて慾深い男‥
僕の両親から全てを奪い、僕から両親を奪っておいて、まだ飽き足らず‥
あの男こそ、血も涙もない正真正銘の悪魔だ。
でも待てよ‥?
そうなると僕は‥僕はどうなる?
「嫁取り‥、僕がいるのに?潤様は‥僕をどうなさるおつもりですか?」
僕は潤の肩にこつんと頭を乗せると、娼婦のように甘えた仕草で端正な顔を見上げた。
僕を捨てられるの?
この僕を‥
いや、それはないか‥
だって現にこの男は僕の身体に溺れつつある。
大丈夫、この男はそう簡単に僕を見限ったりはしない。
僕はどこか確信めいた物を感じていた。
「くくっ、残念だろうが、お前を手放すつもりはない。こんなに淫乱な身体に慣れた俺には女は要らない。小娘には飴玉でも咥えさせておけばいいさ。俺のものを咥えるのはお前だけで充分だからな」
思った通りだ‥
この男は僕を手放すつもりはない。
その証拠に、ほんの少しのすきを付いて僕の顎に手をかけると、驚いた拍子に開いた唇を舌先でぺろりと舐め、
「それにその強情な唇も淫慾にまみれている時だけは素直だからな」
意地悪く皮肉を吐き出す口で僕の口を塞いだ。
ふん、そうやって僕の情慾を煽ればいいさ‥
でも僕だって、今までの従順なだけのお人形とは違う。
強引に舌を絡めようとする潤の胸を押すと、僕は噛み付くような口付けから逃れようと、顔を背けた。
「口付けを拒むとは‥一体どういう心境の変化だ?」
何のつもりだと言わんばかりに僕の顎を掴み直し、潤の冷えた双眸が見下ろす。
心境の変化‥か‥
そんな物はありはしないさ‥
もしあるとすれば、それは捨てる物が何もなくなったから、なのかもしれないな‥