愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第11章 海誓山盟
潤side
正月早々に兄弟揃ってわざわざ呼び付けておいて何の話かと思えば、祝言を挙げろだと‥?
散々気儘な暮らしをさせてやったから、今度は自分の道具になれと言うあの男に反吐が出そうだった。
遅かれ早かれ何かしらの策略に使われることは分かっていたが、まさか宮腹の娘でまだ子供同然だという小娘を嫁取りさせられるとは‥
財を成し‥身分を手に入れたら、今度は血筋か‥。
どこまで慾の深い男なんだ。
内心呆れはしたものの、小狡い知恵のついた女よりは余程ましだと思った俺は、その話を快く承諾した。
それだけ世間知らずの小娘なら適当にあしらっておけばいい。
あの男だって‥母上を散々蔑ろにしてきたんだ。
文句は言うまい。
そうなれば智を手元に置いておくのも都合がいい。
すると俺の目論みを読んだかのように、あの男は目を細めると
「ああ‥そうだ、それまでに身の周りを綺麗にしておけ。玩具を取り上げるつもりはないが、相応のところにといったところだろう。」
翔の手前もあるのか、暗に智を別の処で囲えと言った。
「そうですね。祝言までには‥。」
どうせ無駄に広い屋敷だ‥。
小娘にはどこか離れた部屋を充てがっておけば、暫くは大丈夫だろう。
悪いが智を手放す気はない。
俺はまだあの身体を‥あの男の全てを手に入れてはいないからな。
にやりと笑った俺を見た父親は満足したように頷くと、話は終わったとばかりにさっと席を立った。
相変わらず愛想の無い男だ‥。
ひと言も話すことを許されなかった弟をちらりと見ると、呆気にとられた表情(かお)であの男を見ている。
恐らく翔はこんな話を聞いたことは無い筈。
今までは純粋な弟が、陰謀と欺瞞にまみれたあいつの本性に触れることの無いようにしてきたが、やがて成人を迎える歳になったんだ。
もう‥守ってやる必要も無いだろう。
「‥では失礼しますよ、父上。」
これ以上話すことも無い処に居る必要はない。
とうとう最後まで口を開く事のなかった翔を促すと、返事もしない後ろ姿に背を向けた。