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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第10章 智勇兼備



薄い部屋できつく結ばれた帯を解くと、衣擦れの音に独特の甘い声が混じりだす。

丸みを帯びた身体は明らかに男のそれとは違って‥。


無意識のうちに下腹部を弄った手に触れるものは無く

「どうやらお前では満足できそうにないな‥」

片腕で抱いていた身体を布団の上に下ろす。

すると藍乃は半端に乱れた胸元もそのままに、縋るように胸元にしがみついた。


智はそんなことはしない‥。

あの男は妖艶かつ甘い仕草を見せることはあっても、見苦しく追い縋るような真似はしない。


‥‥何故、智と比べてしまうのか。


「そ‥そんな、松本様‥。藍乃を抱いては下さらないのですか‥?」

「ふっ、好きでもない男に、そんなに抱いて欲しいのか。」

胸元から顔を上げた藍乃を冷たい目で見下ろすと、幼い両目からぽろぽろと涙を零しはじめた。


完全に興の醒めた俺は縋る手を振り払う。

そして

「そのままでは床を出られないというのなら、どうすればいいのかぐらい知っているだろう。」

泣き濡れた顎を取り紅を指で拭うと、藍乃は俺の胸を押して‥自分を貫かせるための茎を大きくすると、その上に腰を落とした。

そこには愛慾どころか、淫慾の欠片も無い‥

吐精したものの慾を満たさなかった身体を押し退けると、乱された服を整えてその部屋を出た。



あの男を抱きたい‥

智の身体でなければ‥


淫らに誘うあの男の身体が‥その心までも全てが欲しい。

‥俺は女を抱く気にすらならなかった。


更に腹立たしいことに、共に快楽に堕ちることを愛だと言う智の甘い罠に見事に絡め取られている自分を認めざる得なかった。

なんとも言えない敗北感とそこはかとなく湧き上がってくる支配慾。


あの男‥どうしてくれようか‥。

俺の慾を絡め取ってしまった智を自分のものにするには‥


酒宴のざわめきの中を歩きながら、俺はあの男の淫慾を煽る術に気を取られていて、自分の後ろ姿を見送る双眸があったことに気がつくことはなかった。



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