愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第10章 智勇兼備
和也side
数カ月ぶりに目にした智さんは、俺が知ってる智さんとはすっかり様子が違っていて‥
もしかしたら熱のせいで食事もろくにとれていないから、だけなのかもしれないけど、酷くやつれているように見えた。
こんなに痩せちゃって‥
それに火照りで赤みは差してるものの、顔色だってとても良いとは言えない‥
酷い‥
俺は意識も虚ろな智さんに向かって、一生懸命語りかける翔坊ちゃんの後ろで、きゅっと唇を噛んだ。
智さん自身が望んだこととは言え、どうしてこんな酷い扱いを受けてまで、ここに居なきゃならないんですか?
悔しいよ‥
俺は智さんに向かって語りかける坊ちゃん一人を残し、静かに部屋を出た。
もう見ていることすら辛かった‥
廊下の壁に背中を預け、天を仰ぎ見ると、不意に溢れ出た涙が頬を伝った。
でもゆっくり感傷に浸っている時間はなくて‥
階下で古時計が刻限を知らせると同時に、濡れた頬を拳でぐいっと拭い、俺は潤坊ちゃんの部屋の扉を叩いた。
これ以上はまずい。
澤さんが風呂から上がって来たら‥
やきもきしていると、静かに扉が開き、瞼を赤くした坊ちゃんが、物音を立てないようそっと部屋から出て来て、手にした鍵を鍵穴に差し込んだ。
「坊ちゃん、私が‥」
震えているのか、上手く鍵が回せない様子の坊ちゃんに代わって、俺は部屋に鍵をかけた。
出来ることならこのまま連れ去ってしまいたい‥
そうすれば、智さんがこれ以上酷い目に合うことも、その手を罪で穢すこともないのに‥
でも今は無理だ。
せめて熱が下がらないと‥
「和也‥?急がないと澤が戻って来てしまう‥」
ぼんやりとしていた所を、坊ちゃんに肩を揺すられ、俺は我に返る。
「あ、そ、そうですね‥。じゃあ私は鍵を元の場所に戻して来ます」
「うん、頼むよ。くれぐれも気を付けて‥」
「はい。お任せ下さい」
俺は階段を駆け下り、澤さんがまだ風呂場にいることを確認してから、澤さんの部屋に忍び込んだ。
もう二度目ともなると忍び込むのも慣れたもんだ。
鍵を元あった場所に戻し、俺は自室へと戻った。