• テキストサイズ

愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第10章 智勇兼備



おれは話し声にも目を覚まさない智の髪をそっと撫でる。

そうしたら、ぴくぴくと睫毛が動いて

「んっ‥、うぅ‥ん‥‥」

苦しそうな息に、小さな声が混じり‥


起きてくれるかな‥


「智‥、わかる?おれだよ‥翔だよ?」

もしかしたら話せるかもしれないって思うと、声を掛けずにはいられなくて。

耳元で小さく声を掛けると

「んんっ‥、はぁ‥っ‥しょ、くん‥」

智は熱い息と一緒におれのことを呼んでくれる。


ただそれだけのことなのに、すごく嬉しくて‥。


「そうだよ、おれ、ここにいるよ‥」

そう声を掛けながら、熱い額に手を当ててあげると

「きもち、いい‥」

って目を閉じたまま、夢を見てるみたいに呟く。

一度も目を開けることの無い智は、多分本当におれがいるとは思ってないのかもしれない。


それでもいい‥。

少しでも辛さが紛れるのなら、智が覚えてなくても構わないって思った。


「智‥早く良くなってね。おれ、心配で堪らない。」

「‥うん‥」

「もうすぐね‥、正月だよ。それからしばらくしたら、おれの誕生日なんだ。」

「ん‥っ、うん‥」

おれは返事をするのでさえやっとな智に、馬鹿みたいに話し掛け続けた。


夢でもいいや‥

覚えててくれなくてもいい。


「そしたらさ‥おれと逃げてくれる‥?ここを出て、おれと一緒にいよう‥」


なんでだろうね‥。

こんなに好きになってしまうなんて思いもしなかった。


気持ちを確かめあうほど、一緒に過ごした訳じゃないのにね。

白い壁のあちらとこちらで‥存在を確かめあっていただけなのに‥いつの間にか、君のことばかり考えるようになってた。



おれは熱い頬を両手で包むと、苦しげな息をしている唇にそっと口づけて‥

「大好きだよ‥。だから智もおれのこと、好きになって‥。」

届かないってわかってる想いだけど、夢の中にいる智に伝えずにはいられなかった。





/ 534ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp