愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第10章 智勇兼備
翔side
だめだなぁ‥おれ‥。
雅紀さんが心配してくれてるようなこと、何にも考えてなかった。
目先のことばっかりに捉われて、大人にならなきゃって思うのに全然変わらない。
和也が鍵を持ってきてくれるのを待っているだけなんて‥なんの役にも立ってない。
無事に鍵が手に入るのかって落ち着かないのと、智が心配なのと‥他にも色々ありすぎて、完全に頭の中が混乱してるのが自分でも情け無くなった。
さっきも壁を叩いてみたけど返事がなかったし、兎に角今は智がどんな具合なのかを確かめなきゃ‥。
落ち着きなく部屋の中を歩き回っていると、少し前に出て行った和也が鍵を手に部屋に滑り込んできた。
「坊ちゃん、急いで下さい。澤さんがゆっくり風呂に入るっていっても、そう時間はありませんから。」
そして気が焦るのか、おれの背中を押して廊下に出る。
「わかった。ちゃんと具合を確かめたら、すぐに出てくるから‥ここで待っててくれる?」
おれは受け取った鍵を穴に差し込んで後ろを振り返ると、和也は頷きながらも
「あの‥私もちょっとだけ‥智さんの顔、見ていいですか?もう、長いこと会ってないから心配で堪らないんです。」
運命を共にしてきた主人の容態が気になるんだと、遠慮がちに言葉にした。
そうだよね‥
和也は一度も顔を見てないって言ってたし。
「いいよ、一緒に行こう。智も喜ぶかもしれないしね。」
申し訳なさそうにしていた彼にも喜んで欲しくて、そっと木扉を開けると中を覗き込んで‥
部屋の中は寝台の上の布団がこんもりとなっているだけで、しんと静まり返っている。
「大丈夫そう。‥行こう、付いてきて。」
「ありがとうございます、坊ちゃん。」
そう短く礼を言った和也は、そろっと部屋に入ったおれの後からついてきて。
二人して、まるで泥棒みたいに忍び足で枕元に近づくと、掛け布団の端から眠っている智の顔が見えた。
「寝てるみたいだね‥。」
でもただ眠ってるだけじゃないっていうのは、その顔を見ればすぐにわかった。
「やっぱり熱を出してるみたいですね、智さん。澤さんが氷の入った桶を用意してたから‥。」
和也の言葉通り、智は頬を赤くして、少し苦しそうに息をしている。
可哀想に‥。
こんなに苦しそうなのに、たった一人で‥