愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第10章 智勇兼備
火照る顔を見られたくなくて一足先に乗り込んだ馬車は、坊ちゃんが飛び乗るのを待って走り出した。
馬車が走り出すとすぐに、窓の外に顔を向けていた俺の肩を、坊ちゃんがぽんと叩いた。
「和也、これおばさまが和也に、って」
差し出されたのは、懐紙に包んだた小さな包で、
「何‥です?」
「ほら、さっきのお饅頭、和也手を付けなかったでしょ?だから‥。こんなお土産まで持たせて下さるなんて、おばさま和也のこと気に入ったみたいだね。さ、有難くお上がり?」
俺は受け取った包をそっと開いて、中の饅頭を指で摘んだ。
一口かじると、ふんわりとした餡の甘さが口いっぱいに広がって、
「美味しいです‥とっても‥」
まるで雅紀さんの腕に包まれているような、とても暖かい気持ちになった。
屋敷に戻った俺達は、幸運にも潤坊ちゃんがもう出かけた後だと言うことを知らされた。
雅紀さんの采配が功を奏した、ってことだろう。
俺と坊ちゃんは夕食を軽く済ませると、事前に立てた計画を実行に移した。
と言っても、実際に行動するのは俺で、坊ちゃんはと言えばどうにも落ち着かないようで、部屋の中を慌ただしく動き回っていた。
「そろそろ澤さんが風呂に入る頃なので、私は少し様子を見てきます」
「うん、気を付けて?」
「はい。では行ってきます」
至って平静を装い、空になった湯呑みを盆に乗せ部屋を出た。
でも部屋を出た途端、俺の足が竦んだ。
しっかりしろ、和也。
大丈夫、一度成功してるんだ。
今度だってきっと‥
自分に言い聞かせ、階段を降りた俺は、台所に寄って澤さんの不在を確認してから、使用人部屋へと急いだ。
辺りに人気がないのを確認してから、澤さんの部屋の戸を後ろ手に引き、澤さんの部屋へと忍び込んだ。
確かここに‥
鏡台の引き出しを引き中を探ると、すぐに指先に冷たい物が触れた。
あった!
俺はそれを握ると、再び辺りを確認しながら部屋を出て、きっと鍵の到着を待ち侘びているだろう、坊ちゃんの部屋へと急いだ。