愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第3章 兎死狗烹
智side
一瞬・・だけど、雅紀さんの手が僕に伸びたのを、僕は違う男に笑顔を向けながら、視界の端で見ていた。
なんて悲しそうな顔・・
それ程までに僕のことを?
でも・・、僕は貴方の愛には応えられないんだ。
ごめんなさい、雅紀さん・・
貴方にもう用はない・・・・
そう・・・・
僕は辿り着いてしまったから・・
僕が一番憎むべき相手・・
僕の両親を死に追いやった男の息子に・・・・
込み上げる怒りに、身体が震えそうになる。
殺してやりたい…
一瞬僕の中に芽生えた殺意にも似た感情が、自然と僕の指先から体温を奪って行く。
指先だけじゃない。
全身の体温が一気に冷えて行くような・・、そんな感覚を覚えた。
「外は寒かったかい?少し手が冷たいようだが」
一度は離れた手が再び握られ、僕は咄嗟にその手を握り返すと、
「いえ、そんなことは。ただ少し・・」
今にも消え入りそうな声で答え、そっと瞼を伏せて見せた。
そう・・、まるで幼子のように・・・・
「少し・・、どうしたんだい?言ってご覧?」
戸惑う素振りで小さく首を振って見せる僕を、彫刻のような顔が覗き込む。
「こんなに晴がましい場には慣れてなくて・・少し・・落ち着かなくて・・・・」
言いながら伏せた瞼を持ち上げ、水分を多く含ませた目でその男の顔を見上げると、男はこれ以上はないと言うくらいの笑を浮かべて、
「大丈夫だよ。雅紀も・・それに俺もそばについているのだから、案ずることは何も無いさ」
そう言って一瞬、視線を雅紀さんに向け、僕の腰に手を回すと、大きな扉の向こうへと僕を誘(いざな)った。
結局皆同じだ・・
雅紀さんにしろ、この男にしろ、所詮は僕を好きにしたいだけの、醜い欲の塊・・
腰に回された手が、それを物語っている。
ならば僕は・・
一面のガラス窓から差し込む陽射しと、床に敷き詰められた絨毯の柔らかさを肌で感じながら、僕はその男の腕に身を委ねた。
堕ちてしまえばいい・・
僕の仕掛ける甘い罠に・・・・
堕ちろ・・
奈落の底まで・・・・