愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第10章 智勇兼備
「和也‥?」
雅紀さんが一瞬戸惑ったような、驚いたような声を上げた。
でもすぐに俺の意を察したのか、繋いだ手はそのままに、もう一方の手で俺の頬をするりと撫でた。
「まったく君と言う子は、どこまで私の理性を掻き乱せば気が済むのか‥」
溜息交じりに呟き、熱を持った吐息が頬を掠めた瞬間、俺の唇に雅紀さんの唇が重なった。
決して深くはない、触れるだけの口付けなのに、胸の奥がじんわり熱くなる。
「さあ、行こうか?」
「…はい」
雅紀さんが繋いだままの手を引いた。
俺はその後ろを、俄に熱くなった顔を少しだけ緩ませ、小走りで着いて階段を降りた。
階下では待ちくたびれのか、翔坊ちゃんがしきりに溜息を漏らしていた。
「待たせてしまって済まなかったね。さ、気を付けておかえり」
「あ、はい。おれ達こそ、お忙しい時にお邪魔してしまって‥」
「いや、構わないよ。私も和也の顔が見れて嬉しかったしね?」
むず痒くなるようなことを、いとも簡単にさらりと言ってのける雅紀さんに、俺はほっぺたを思い切り膨らませて見せる。
すると、
「あ、そうだ。和也、ちょっと…」
俺に向かって手招きをしてから、その手を口元に宛てた。
「何でしょう…」
俺は首を傾げながらも、少しだけ背伸びをして雅紀さんの口元に耳を寄せた。
「今度は休暇の許しを貰っておいで?その時は存分に甘い時間を楽しもうではないか」
「えっ‥?」
一瞬何を言われているのか、意味が全く分からず、傾げた首を更に傾げた。
でも、
「あっ‥!」
意味が分かった瞬間、ぼっと火がついたように顔が熱くなった。
「も、もう‥、知らない‥」
俺の様子にくすくすと肩を揺らす雅紀さん無視して、俺は一人玄関を飛び出した。
もう‥、翔坊ちゃんがいる前であんなこと‥、恥ずかしいったら‥
でも‥
“今度”ってことは、また会いに来てもいい、ってことなんですよね?
そうなんですよね、雅紀さん‥?